「弾劾訴追案」の個別項目を一つにまとめて拙速な表決(All articles lumped together for voting, rather than separately)
弾劾訴追案にはいくつかの項目がある。賛否については、各項目ごとに別途表決するのが妥当である。しかし、国会はこのすべての項目をひとつにまとめて表決に付した。[9] 弾劾問題を大まかにひとつに統合、採決したことで、誰が何について同意し、何に対して同意しなかったのか、その区別が難しくなった。 少なくとも一つ以上の項目が、3分の2以上の賛成票を得られなかったかもしれないのに、これを明確に区分しないまま、すべての項目が一度に憲法裁判所に送られた。 ニクソン大統領のケースと比較すると、当時、米国の法司委員会は、弾劾訴追案にあげられた項目をそれぞれ扱っており、その結果、5項目のうち3項目のみ通過させた。
憲法または法律違反は確認されたのか? (Was a violation of the Constitution or the law ascertained?)
憲法第65条1項では、大統領を弾劾するには、大統領が「その職務執行において憲法や法律を違背」しなければならないと明示している。 このため人々は、大統領の弾劾が重要な国家事案であるだけに、最小限の捜査と根拠があったものと考えてきた。
驚くべきことに、朴槿恵大統領の弾劾訴追案が国会を通過するまで、直接的な捜査はもとより、証拠を収集する努力すらなかった。 法典にもない「国政壟断」という罪に問われ、その国政壟断の「スモーキングガン」(動かぬ証拠)はJTBCのタブレットPC報道だった。 報道内容の事実確認も十分に検証されていない。 朴大統領が憲法や法律を違反したという証拠も一切なかった。 具体的な事実関係が立証されないまま、単純な疑惑や風説レベルで弾劾手続きが進められたが、これは違憲である。 しかし、このような事実も弾劾過程において無視された数多いものの一部に過ぎない。
ここでも「無罪推定原則(innocence until proven guilty)」は適用されなかった。 2016年11月17日に着手した捜査があったが、朴槿恵大統領に対するものではなかった。 弾劾訴追案が国会で議決される3週間前に着手したこの捜査は、チェ・スンシルに対してのみ集中的に行われた。
弾劾に対する憲法裁判所の判決後、朴槿恵大統領に対する刑事裁判が始まった。 朴大統領がお金を受け取ったという証拠を発見できなかった検察は、朴大統領とチェ氏が一つの共同体であることを主張することで「連座制(guilt by association)」の概念を適用した。連座制は、西欧文明圏では見られない、北朝鮮のような国で通用する概念だ。
国会は、特別検事を任命する決議案を通過させて、チェ氏に対する調査を「朴槿恵政府のチェ・スンシルなど民間人による国政壟断疑惑事件究明」と命名した。 彼らはチェ氏の法的名前ではなく、前述したように教育を受けたことのない、田舎くさいイメージを与える「スンシル」という彼女の改名前の名前を使った。彼らがチェ氏を取り調べて証明しようとしたのが「国政壟断」であるため、朴大統領を起訴するには、まずチェ氏に対する調査が終わるまで待つのが普通である。(前述のように、「国政壟断」違反という概念が法的に存在しないのに) チェ氏に対する容疑に根拠がないことが明らかになれば、朴大統領を起訴する根拠も消えるためだ。 しかし、疑わしいことにチェ氏に対する捜査に着手してから3日後、チェ氏の裁判(拘束起訴)が始まった。判事は450日が過ぎた2018年2月13日まで、関連裁判の有罪・無罪の判決を保留した。