「ある意味、地獄が待ってます」退職自衛官を苦しめる若年給付金の返納ルール|小笠原理恵

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ある駐屯地で合言葉のように使われている言葉があるという。「また小笠原理恵に書かれるぞ!」。「書くな!」と恫喝されても、「自衛隊の悪口を言っている」などと誹謗中傷されても、私は、自衛隊の処遇改善を訴え続ける!


再就職先の賞与を辞退した、元自衛官の告白

「なんのために一生懸命働いているのかわからなくなる」

ある元海上自衛官(A氏)の告白が、いま私たちに突きつけるのは、「勤労を評価しない制度」の深い矛盾である。

A氏は防衛省の制度に従い、定年退職後に再就職。自衛隊を定年退職した後も、年金がもらえる年齢まではしっかり働こうと考えていた。新しい仕事にいろいろ戸惑いはしたものの真面目に頑張ってきたつもりだった。しかし、その勤労意欲に冷水を浴びせたのが「若年定年退職者給付金(若年給付金)」の“返納ルール”だった。

自衛官は定年年齢が民間より早く、A氏の退職当時、たとえば海上自衛隊の佐官では、通常55~56歳で定年を迎えた(2024年10月から57~58歳に定年年齢を引き上げた)。その後の生活支援として、条件を満たす者には「若年給付金」が支給される。だがこの給付金、「退職後の再就職先で、しっかり働き、稼ぎすぎたらゼロになる」という勤労意欲を減退させる仕組みとなっている。

具体的には以下のような返納基準がある。

防衛省の職員の給与等に関する法律

「若年定年退職者給付金に関する省令」

〇前期給付金
退職翌年の所得金額と1年間の給付金額(退職時俸給月額の6か月分)の合計額が、退職翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合の給与年額相当額を超えた場合、その差額を返納

〇後期給付金
61歳の年の所得金額と1年間の給付金額(退職時俸給月額の3.45か月分)の合計額が、退職翌年まで自衛官として在職していたと仮定した場合の給与年額相当額を超えた場合、その差額を返納

A氏は「再就職で年収700万円を得られる見込み」であったが、所得が増えれば増えるほど、この制度により給付金が減額され、場合によってはゼロになる――。

実際、彼は「若年給付金1,000万円のうち100万円をカットされる事態」となり、せっかくの若年給付金を減らされたくないと、泣く泣く再就職先の賞与(4カ月分)を辞退した。

「真面目に働いただけなのに、稼げば稼ぐほど、若年給付金が減額される……。このような『罰』をなぜ受けなければならないのでしょうか。国家に尽くした人間が、定年後に豊かな老後を暮らせない。ここまで再出発の足をひっぱるのかと憤りを感じますね」

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