昨年(2024年)の12月3日深夜、尹錫悦大統領は不正選挙疑惑の解明と野党による立法独走を阻止するとの名目で、非常戒厳令を発令した。戒厳軍は国会や選挙管理委員会などの要所に投入され、その光景は全世界がリアルタイムで見守った。これに強く反発した野党議員らは、尹大統領を内乱の首謀者と断じ、12月14日、一部与党議員を巻き込んで国会で弾劾案を可決した。以降、「内乱」というフレームは多くの韓国メディア、政治家、知識人、さらには保守系有権者にまで広がっていった。
こうした状況を受け、一時は尹大統領の政治生命が完全に絶たれたかに思われた。しかし、潮目は明らかに変わりつつある。1月と2月に実施された世論調査では、尹大統領の支持率が50%を超え、弾劾に反対する世論も44・8%に達し、日を追うごとに勢いを増している。光化門広場をはじめ、全国の主要都市では毎週のように数万人の支持者が集まり、弾劾無効と不正選挙の徹底検証を訴えている。もはや一過性の社会現象と片付けることはできない。
尹大統領が戒厳令を発令するに至った根本的な原因とは何だったのか。「親ユン」支持者がこれほどまでに結束する理由とは何か。そして、韓国の外交・安保に生じた空白は今後、日韓関係にどのような影響を及ぼすのか。
今回、韓国政治に精通する柳錫春元延世大学教授と、公明選挙大韓党の閔庚旭代表に対談をしてもらった。
非常戒厳令を宣言した核心的理由
柳錫春 昨年12月3日、尹大統領が非常戒厳令を宣言した核心的な理由の一つは、不正選挙疑惑の徹底的な検証でした。過去5年間、孤独にこの戦いを続けてきた閔代表にとって、ついに頼もしい味方が現れたと言ってもいいでしょう。
閔庚旭 ご存じの通り、韓国で不正選挙の議論が本格化したのは、2020年4月15日の総選挙の時でした。当時、私も仁川「延寿区乙」で出馬しましたが、2位で落選しました。主な候補者は3人で、私と当選者の票差は2893票でした。特に私が出馬した選挙区は伝統的な保守地域であり、当時私は右派の単独候補として再選に挑戦する立場でした。さらに、左派陣営では2人の候補者が出馬し、票が分散される状況であったにもかかわらず、私は敗北しました。この結果に到底納得できず、即座に調査を始めたところ、統計学的にあり得ない数字が浮上し始めました。また、他の選挙区でも多くの保守派候補者たちが同様の経験をし、この戦いが本格的に幕を開けたのです。
柳錫春 選挙制度、特に投開票の過程に重大な欠陥が存在していることは明らかであり、選挙管理委員会(選管委)の不正や不備も否定できない事実です。とりわけ、選管委の組織構成には深刻な問題があります。現職の大法院判事が委員長を務め、常任委員も元部長判事が担っています。さらに、7人の委員のうち4人が元高級裁判官で構成されており、各級の一線の選管委員長はすべて現職の裁判官が務めています。このような構造では、通常の方法でこの独立機関を捜査することは事実上不可能と言えます。したがって、大統領が非常戒厳令という権限を活用してでも国民的な疑惑を解消しなければならない。ところで、閔代表は12・3戒厳令について、どのように評価されていますか。
閔庚旭 戒厳令の発動には慎重を期すべきだと考えていますが、戒厳令宣布は韓国憲法に基づく大統領の合法的かつ固有の権限です。実際、ミャンマーやウクライナ、フィリピンなどの事例を見ても、近年の歴史において戒厳令が実施されたケースは決して稀ではありません。何より、12月3日の戒厳令発動の根本的な原因は、反国家勢力による選挙介入によって従北左派の巨大野党が誕生したことにあると認識しており、そのため私は戒厳令を支持しました。民主党をはじめとする巨大野党による立法独走や無差別な弾劾が司法と行政府を麻痺させたことも重要な要因ですが、その核心は不正選挙の徹底的な調査にあったと考えています。国会よりも選挙管理委員会により多くの戒厳軍が投入されたのも、まさにこの文脈において理解できることです。
柳錫春 私も大きく二つの理由があったと思います。一つは、ご指摘の通り、不正選挙疑惑を大統領の権限で調査するということ、そしてもう一つは、暗躍する従北反国家勢力を撲滅するという意図でした。現在の世論を見る限り、当初とは異なり、多くの国民が尹大統領の決断を支持しています。
2月4日にペンエンドマイクが発表した世論調査によると、尹大統領を支持すると答えた割合が51%に達しました。これは大統領当選時の得票率を上回る数値です。また、1月中旬に実施されたファイナンシャル・トゥデイの世論調査では、回答者の46・9%が不正選挙に対する検証が必要だと答えました。同時期に実施された朝鮮日報の調査によれば、保守派の間では70%が不正選挙に共感すると言っています。一連の事態を通じて感じたのは、尹大統領が生まれながらの「勝負師」気質を持っているということです。彼の政治的手腕に対する評価には賛否がありますが、勝負に出るタイミングを見極める能力は非常に優れています。今、尹大統領はまさに日本語で言う「勝負をかけた」と言えるのではないでしょうか。