第一部 基調講演
基調講演は、本シンポジウムの協催団体である「歴史認識問題研究会」会長の西岡力麗澤大学特任教授、「李承晩学堂」校長の李栄薫ソウル大学名誉教授、さらにハーバード大学ロースクールのJ.マーク.ラムザイヤー教授の三名によって行われた。以下その要旨を紹介する。
① 西岡力氏「歴史認識問題としての慰安婦問題」
西岡力氏
慰安婦問題の経過を整理すると下記の4つの要素がある。
1. 日本国内の反日マスコミ・学者・運動家が、韓国の一部運動家らと協力して事実に反する日本非難キャンペーンを行う。それを受けて、韓国のマスコミがよりひどい虚偽を拡散する。
2. 韓国政府が正式な外交問題にして解決を日本に迫った。
3. 日本政府が韓国の不当な要求に対して事実に踏み込んだ反論をせず、まず謝罪して道義的責任を認め、人道支援の名目で、すでに条約・協定で解決済である補償を再び中途半端な形で行ったため、問題をさらに悪化させた。
4. 北朝鮮が日韓関係を悪化させることを目的として日韓の反日活動家と連携して、事実無根の日本非難を国際社会で拡散した。その結果、日韓間で外交紛争が続き、我が国と我が祖先の名誉が著しく傷つけられた。
日本の反日マスコミ・左翼学者が反日キャンペーンを行った理由は、1991年にソ連が崩壊したことで、共産主義の優位性を主張できなくなった彼らが、自分たちの誤りを総括・反省することなく、日本の過去を糾弾する「反日砦」に逃げ込んだことにある。自分たちだけが日本の過去の「悪行」を反省している「良心的知識人」であると自称して反日活動を始めたのだ。
韓国では1980年前半の全斗煥政権から過去の歴史を外交の道具に使いだした。当初全斗煥は、韓国が「共産主義の防波堤」であることを強調して日本に経済支援を求めた。日本政府が「共産主義と共に戦う」という論理に難色を示したことから、全斗煥政権は過去の「悪行」を日本に突き付けて譲歩を迫るという歪んだ対日戦略に切り替えた。中国共産党や朝日新聞のような日本の左翼メディアとも共闘し、歴史問題で日本を攻撃し、結果的に中曽根内閣の時代に40億ドルの経済支援を日本から勝ち取っている。
一方、北朝鮮は、1980年代に入ると経済力で韓国に凌駕されたことから、その優位性を主張するために反日民族主義を持ち出した。「韓国は親日派を処断せず、親日派だった朴正煕が権力を握って過去をうやむやにしたまま日本と国交を結んだ。それに比べて北朝鮮は抗日運動の英雄である金日成が建国し、親日派を処断し、反日民族主義を貫いたから、民族としての正当性は北にある」という「反韓史観」を韓国に拡散させた。
この「反韓史観」は金大中、廬武鉉と続いた左翼政権時代に韓国全体に広がり、文在寅政権に至ってほぼ韓国の「正史」となっている。
「反韓史観」は、その大前提が「日本統治は不法な植民地支配だった」という歴史認識であり、日本の朝鮮統治は悪業でみちていなければならない。日本軍が朝鮮の少女を多数強制連行して性奴隷としたという「嘘」はこの「反韓史観」をサポートする絶好の物語となった。
慰安婦問題はこのような経過を経て捏造されたものであり、いかに我が国が繰り返し謝罪しても解決しない構造になっている。ところが安倍晋三政権が登場するまではそのことに気づかず、こちらが誠意を見せれば通じるはずだという安易な姿勢に立ち、事実に基づいた反論を行わなかった。そのために嘘が国際社会に広がり、我が国と先人の名誉が著しく汚され、日本の中で韓国嫌いが増え、日韓関係は悪化の一途を辿った。
その嘘を広めた勢力には、ここに述べたようにそれぞれの動機や理由があった。嘘を広げた勢力の正体とその動機や目的を明らかにするのが歴史認識研究である。今後ここに集まった日本と韓国と米国の真実勢力が力を合わせてその課題に取り組み、そして「嘘」には事実に基づいて徹底的に反論しなければならない。