② 李栄薫氏「日本軍慰安婦の問題が韓国社会に及ぼす破壊的効果」
李栄薫氏
韓国政治史において、李承晩から朴正煕に至る「権威主義的」政権は、国家理念の確立と経済発展の基本戦略において、国民の民族主義的情緒に左右されず、冷静に国家利益を追求してきたと言える。以降、全斗煥政権までの権威主義政治期(1948~1986)に韓国は近代的国民国家の枠組みを整備し、高度経済成長を成し遂げた。
1987年の金泳三大統領の登場でいわゆる「民主化時代」が始まったが、これ以降歴代政権は全斗煥政権までを「親日派」を擁護し「親日政策」を取った売国政権であると決めつけ、これを否定することで自己の正当化を図ってきた。このため「民主化」以降韓国の対日感情は悪化の一途を辿ることとなった。一般的に国際交流が増大して経済発展が行われれば、他の国、特に隣国に対する敵対感情は弱まるといえるが、韓国の敵対感情は逆の趨勢を踏んだと言える。そこには先に触れた韓国政治史の変化と共に日本軍慰安婦問題が一つの大きな要因として作用した。
韓国における慰安婦問題は1981年に日本で出版された吉田清治の『私の戦争犯罪:朝鮮人強制連行』がその発端である。日本統治時代や朝鮮戦争を経験していない若い世代は、かつて売春が合法的な職業であったという認識が欠けており、彼らの頭には「戦時期に数多くの女性が日本軍によって強制連行され性奴隷にされた」という吉田清治の「嘘」が真実の歴史として植え付けられている。
さらに挺身隊と慰安婦を混同した挺対協の活動家たちは、「挺身隊として引っ張られて性奴隷にされた」と韓国内で喧伝し、この認識が韓国内で定着して行った。
しかしながら、これは全く「嘘」である。挺身隊とは1944年日本で発令された女子挺身勤労令によって12~40歳の未婚女子を工場に動員したものであって、慰安婦とは全く関係がない。しかもこの法律は韓国内では発令されておらず、朝鮮では志願者の中で2000人程度が選抜されて工場で働いたのみである。
挺対協の活動家ばかりでなく、当時は韓国の歴史学者や社会学者の中で日本軍慰安婦問題を総合的に理解する研究者は一人もおらず、私は慰安婦問題が爆発した1990年代に、それについて学術的価値のある論文や著作を一つも見つけることが出来なかった。挺対協の活動は学術的に完全に不毛の状態から出発し、そのために膨大な副作用を韓国と日本の両方に残した。
私はこのような挺対協が主導する慰安婦運動に対して異議を申し立てる最初の人となった。2004年に全国に放映されたテレビ討論会で、朝鮮戦争当時も韓国軍が慰安所を運営しており、また韓国政府の支援の下で韓国に駐留する米国軍にも数万人の慰安婦が割り当てられたことを指摘し、「日本軍に配属された慰安婦だけを戦争犯罪の犠牲者とみなし、それらを強制動員した人々だけを処罰する理由がなにか」と問い糺した。
ところがこれで私は大バッシングを受けることとなった。数多くの悪口電話がかかり、私が所属する学部のホームページは私を非難する文でダウンした。私の研究室には卵が投げつけられ、女性国会議員は私の国立大学教授職を奪うべきだと主張した。
やがて元慰安婦たちが車椅子に乗って大学キャンパスに押し掛け抗議デモをやるとの情報があり、やむを得ず私は彼女らが収容されている施設を訪ねてお詫びをした。
その謝罪の現場で「私は研究者として、いつか皆さんがどのようにしてその不幸な人生を過ごすことになったかを詳しく研究して世界に明らかにする」と誓った。そして私がその約束を守るのは、大学を定年退職した後、2019年に数人の共同研究者と共に出版した『反日種族主義』を通してであった。
私はこの本の執筆過程で1945年の終戦後、1960年までに韓国では日本統治時代の数十倍の慰安婦が民間の集娼村、米軍基地、そして朝鮮戦争時には韓国軍の周辺に存在していたことを知った。彼女たちは日本軍慰安婦よりもはるかに劣悪な境遇に置かれていたのだ。
一方で、私は日本軍慰安婦に関して既存の研究者たちが主張してきた、強制連行説や性奴隷説にふさわしいいかなる実証的根拠も確認出来なかった。
日本軍慰安婦は、貧困層の親権者が斡旋業者から相当金額の前借金をもらって娘の慰安婦就業を承認し、年季労働契約を結んで売春業に進出した女性達である。耐えられずに心身が破壊された女性はいたが、ほとんどの女性は前借金を返済するか、または契約期間の満了にともない、慰安所を離れて次の新しい人生を開拓した。
現在韓国では、国内のあちこちに建てられた慰安婦像を撤去せよという運動が金柄憲氏を中心に活発に展開されている。彼は過去30年間の日本軍慰安婦運動は「国家的詐欺」であり「国際的詐欺」だと真実を訴えている。だが彼の主張に対して韓国の政治と知性そして言論は沈黙している。日本軍慰安婦運動は韓国人の知性と良心を麻痺させた。正にその点がこの講演のタイトルである「破滅的影響」である。
③ ラムザイヤー氏「歴史問題と米国大学の問題―これからどうすべきか?」
ラムザイヤー氏