「トランプ・パラドックス」と高市政権の命運|山岡鉄秀

「トランプ・パラドックス」と高市政権の命運|山岡鉄秀

石破政権が残した「相互関税+80兆円投資」ディールは、高市政権に重い宿題を突きつけている。トランプの“ふたつの顔”が日本を救うのか、縛るのか──命運は、このパラドックスをどう反転できるかにかかっている。


高市政権が背負わされた“爆弾”

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日本の保守派は、2020年大統領選の“バイデンジャンプ”に唖然とした。あの夜を境に、世界の座標軸がずれた感覚を、多くの人が共有しているはずだ。バイデン政権の下で起きた安倍晋三元総理暗殺は、日本政治の精神的支柱を断つ分水嶺となり、駐日米大使ラーム・エマニュエルの露骨な干渉を伴って、与党中枢は「保守」の看板を掲げたまま左傾を加速させた。

そこからの4年は長かった。保守層はトランプの再選に最後の希望を託し、日本再起の道筋が開けると信じた。

ところが、岸田文雄が民意を無視して総裁選に介入し、まさかの石破茂政権が誕生する。日米関係は最悪域に達し、国内は政治空白と政策迷走に呑み込まれた。地獄の1年をかろうじて抜け、ついに高市政権が発足する。高市とトランプが腕を組み、空母で並び立つ。演出過剰だ、はしゃぎすぎだ、と左派は口角泡を飛ばした。

しかし、こうしたセレモニーは関係修復の演出以上でも以下でもない。目くじらを立てるテーマではない。

はるかに深刻なのは、石破政権下で結ばれ、高市政権が引き継いだ「相互関税+80兆円投資」ディールだ。トランプ来日の最大目的は、商務長官の説明どおり、日本側が最大で80兆円(5500億ドル)規模の投資意向をどこまで履行するのかを確認することにあった。

ホワイトハウスの公表文を素直に読めば、この枠組みの中核は、日本(および日本企業)が米国内のエネルギー、重要鉱物、製造、AIインフラに巨額投資を検討・提示し、米側は15%の“基準関税”を設定するという構図で、史上例を見ない“投資コミットメント”の枠組みが記されている。米政府文書には、日本側が米国での投資意向を示したことが明記されている。

米議会調査局(CRS)は、この枠組みの骨格として「日本から米国への輸入に一律15%の関税を課す方針」が据えられたこと、当初は25%案だったが最終的に15%で決着した経緯を解説している。ただし、具体的な発動時期や実際の運用は、法的な審査・係争が続く中で不透明だ。これと引き換えに、日本側は防衛・航空装備の前倒し調達や対米投資コミットメントの拡張を約束した。

さらに、赤澤経済再生担当大臣(当時)は、投資枠組みの運用について「案件は日米の協議委員会で審査され、最終的には米国大統領の判断で選定される」と説明しており、米国内のインフラや資源を前提とする案件では、実施にあたって米国側の許認可プロセスや判断に大きく依存する構造が示されていた。

実際に、覚書署名後も具体的な案件の中身が固まらないまま協議だけが先行している現状は、「The Japan Times」など大手紙も報じている。見かけは「ゴールデンエイジ」だが、条項を精査すれば、資金・市場・規制主権の献上(無条件降伏)に近い。

トランプ・パラドックスの起点

そもそも、米国の製造業衰退と恒常的赤字は、他国が米国を搾取したからではない。90年代以降の政策選択により、米国はサービスに特化し、モノは輸入で賄う構造に自ら舵を切ったのだから、貿易収支が赤字になるのは当然である(米国のサービス収支は黒字)。

その帰結として、IT・金融などのサービス分野では米国の独壇場だが、製造業の再建・インフラ更新となれば外資の資金と技術に依存せざるを得ない。そこで「日本に金を出させ」、「日本の技術」を転用するディール(目論見)が生まれる。ラベルは“相互”だが、実態は「投資義務+関税」という非対称の二重拘束である。

日本側の関税は自動車のゼロ%を初めてとして低い水準にとどまるのに対し、アメリカ側は最大で15%方針が示されるのだから、相互でもなんでもない、一方的で懲罰的なディールである。

要するに、石破政権が実行した「赤澤ピストン外交」は、トランプが持つもう一つの顔である“破壊的ディールメイク”の側面を最大化させ、日本の未来にとって最悪の組み合わせをつくってしまった。トランプは本来、米国の国益を最大化する“ビジネスマン大統領”だ。その対日自立要求は、戦後日本が脱皮して真の独立を果たす貴重な機会になり得た。

歴代でもアイゼンハワーやニクソンが日本の自立を促したが、日本は保護国のまま従属する道を選んできた。しかし今や相対的に国力を落とした米国の再建に踏み切るトランプは日本に真剣に自立を求める。これは日本にとって戦後レジーム脱却のチャンスである。

ところが、岸田の自己保身が呼び込んだ石破内閣は、その潮目を読めず、逆に敵視され、巨額投資と関税の抱き合わせで“従属の釘”を打ち込まれた。私はこれを「トランプ・パラドックス」と呼ぶ。——自立を促すはずのトランプが、日本をさらに縛って貢がせる結果を生んでしまったという逆説だ。

しかし、トランプの手法には危うさもある。ホワイトハウス公表文には、原子力(AP1000、SMR)、高電圧直流送電、データセンター電源、光ファイバー、先端電子部品、重要鉱物、港湾改修に至るまで、日本の名だたる企業名を列記しつつ、最終判断は米国側のプロセスを通じて行われる構造が示されている。これが「投資の自由意思」を超えているのではないかという論点が、米国内でも議会・司法関係者の間で活発化している。

大統領が外国から資金を得て、議会の承認なく使途を指定することが許されるのかという点で、歳出条項(Appropriations Clause)や関連法制の観点から、合憲性への疑義が提起されている。

トランプ関税の中核に対しても、下級審で違法判断が相次ぎ、連邦高裁も IEEPA(1977年国際緊急経済権限法)を根拠とする広範な関税発動に違法の判断を示した(執行は当面継続)。最高裁は、合憲性をめぐる大法廷弁論を開き、複数の判事が政府側の論拠に強い懐疑を示している。

最終判断はこれからで、トランプ側が勝てば大統領の通商裁量は拡大し、負ければ関税戦略は根本から揺らぐ。日本にとって重大なのは、「合意の半身」をなす関税レジーム自体が、違法の可能性を含み、不安定要因になっているという現実だ。

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