とんでもない法律の規定
迂闊だった! 令和五年に、対家庭連合(旧統一教会)に対する特別法が制定されていることに気が付いていなかった。
正式には「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律」(略称「特定不法行為等被害者特例法」)という。令和5年12月13日に成立し、12月20日に公布、翌年3月19日から施行された。
この少し前、すなわち令和5年10月13日、文科大臣によって東京地裁に向けて家庭連合に対する解散命令の請求が行われている。
その際、「教団が解散して財産が被害者への弁済に使われるとしても、その財産が教団によって外国などに移転されていたら弁済できなくなる。そのようなことを防がなければならない」と言われていた。一理ある話であり、そのために法律ができたのなら仕方がない、と思った記憶がぼんやりとはある。
だから目的自体はいいのだが、問題はこの法律にとんでもない規定が並んでいることである。
その説明の前に、まず筆者がなぜこの法律の問題に気が付いたのかを書いておきたい。
この段階で、東京地裁より家庭連合に対して解散命令の決定はまだ出ていないが、出たら解散に関係して何らかの法整備をしなければならない。そこで文化庁宗務課が、解散となる宗教法人を「指定宗教法人」として「指定宗教法人の清算に係る指針」の案を作成したのだ。
その「指針」に対して、家庭連合の関係者から、筆者にパブリックコメントに応じてくれないかとの依頼があり、そこで初めてこの法律の詳細を知ったのだが、あまりにもとんでもないことが規定してあり、驚いた。
まず、「指定宗教法人の清算に係る指針」とは何か。宗教法人法には、もともと解散命令を出された宗教法人の財産を保全する規定がない。そのため、宗教法人の解散命令に当たって指針の類が必要となる。
そのためにできたのが「指定宗教法人の清算に係る指針」なのだが、これによると、宗教法人家庭連合に限って、無限と言ってよいほどに被害の救済に取り組むものになっているのだ。
「被害者への弁済」にはこう書かれている。
「清算人は、債権の申出期間内に被害を申し出た被害者はもとより、債権の申出期間経過後に申し出た被害者を含め、一人の被害者も取り残すことのないよう、被害者に対し誠実に対応するとともに、でき得る限りの努力をもって被害の回復を図ることを基本的な立場とすべきである」
一見、もっともらしいように読めるが、なぜ宗教法人家庭連合の被害者救済のみに、かくも便宜が図られなければならないのか。他の宗教法人で被害を受けた場合はそのままにして、明らかに公正、公平ではない。
損害賠償という窃盗行為
では、この「指針」に筆者がどのようなパブリックコメントを出したか。以下に転載する(氏名等は不要なので省略)。
指定宗教法人の清算に係る指針への意見
Ⅰ、1(1)本指針の趣旨・目的について
本指針の趣旨・目的の「指定宗教法人」について、本指針案によれば、「指定宗教法人」とは、「特定不法行為等に係る被害者の迅速かつ円滑な救済に資するための日本司法支援センターの業務の特例並びに宗教法人による財産の処分及び管理の特例に関する法律」(令和5年12月20日公布、令和6年3月19日施行)(以下「特例法」という)第二条第一項に規定する特定解散命令請求等により解散命令が確定した宗教法人のことを指すとしている。
すなわち、本指針では「解散命令が確定した」宗教法人を「指定宗教法人」として、その清算に係る手続等を規定したものである。現時点にあって、家庭連合に対し文科大臣及び東京地裁によって解散命令の手続が進んでいることは確かであるが、その手続の途中であり、解散命令が確定しているわけではない。
解散命令が確定していない宗教法人であっても、解散のための手続が進んでいる以上、解散命令が確定した場合の清算の手続等の指針を定めるのは、一応は許されることである。
しかし、自称被害者と名乗る者の損害の報告に基づいて、それを「特定不法行為等」と称して損害賠償を行うのは、損害賠償の名の下になす窃盗行為ではないか。
「特定不法行為等」はあくまでも自称被害者と名乗る者の被害の報告に基づくものであって、いまだ法的に認められた不法行為ではない。不法行為として明らかになっていないものに対して賠償をするのは明らかに窃盗行為への加担である。
これは解散させられる当該宗教法人に対して、本来、憲法で保障されている財産権を侵したことになり、憲法違反となる。
本特例法では、「特定不法行為等」は司法の手続を経てその上で不法行為として認められたものであることを前提としている。が、本指針では、その手続のないまま、被害者と名乗る者の被害の報告でもって賠償の対象にしようとしている。
すなわち、本指針に基づいての「特定不法行為等」への弁償は、法治主義の原理の下、許されない賠償行為ではないか。
因みに、令和5年10月13日、文科大臣は東京地裁に向けて解散命令の請求をなしたとき、家庭連合(旧統一教会)の側は、行政訴訟を行うべきであった。が、それを行わなかった。
その訴訟が起こさなかったため、文科大臣が東京地裁に向けて「解散命令」を請求したことが、あたかも解散命令につき、法的に一定の効力が生じたかのような印象を与え、特例法の制定を誘引する結果になった。
よって、本指針の検討にあっては本法特例法まで遡って検討していただきたい。

