「豊かになる前に老いる中国」の悲劇―データが示す中国経済の近未来|澁谷司

「豊かになる前に老いる中国」の悲劇―データが示す中国経済の近未来|澁谷司

全人代で李克強首相が「需要の縮小、供給網への衝撃、市場の期待の後退」という「三重の圧力にさらされている」と危機感を表明した中国経済。経済より政治が優先される習近平政権下で今何が起きているのか。確かなデータをもとに中国経済の現状と近未来を緊急分析する。


すると、低所得層は、1ヶ月の手取り「1万円余り」、下位中所得層は、同「2万1000円余り」、中所得層は、同「3万4000円近く」、上位中所得層は、同「5万3000円余り」、高所得層でさえ、同「10万4000円未満」に過ぎない。このように、高所得層(人口の20%)だけが、1人当たりのGDP1万米ドルを超える。だが、残りの80%は、手取り月収5万4000円未満で暮らしているのである。

毎年、『フォーブス』誌では、世界の長者版番付を発表する(“Forbes world’s billionaires list The richest in 2021”)。2021年度版では、第1位から50位までの中で、日本人はたった2人(ソフトバンクグループの孫正義氏とユニクロの柳井正氏)しかいない。けれども、中国人は何と10人もいる。
他方、いわゆる収入不平等指数であるジニ係数(0~1)は、中国の場合、2020年には、0.704である(任沢平「任沢平が中国收入分配報告2021を語る:現状と国際比較」)。著名な経済学者、任沢平は同年、中国の富裕層上位1%の富全体に占める割合が30.6%まで上昇したと鋭く指摘した。

一般に、ジニ係数が0.6以上になると、社会不安が増大し、“革命”が起きやすくなるという。したがって、中国ではいつ“革命”が起きてもおかしくない状況にある。しかし、中国共産党は、「デジタル専制」体制で住民の蜂起を阻止しているのではないだろうか。

ちなみに、少し数字は古いが、厚生労働省の「図表1-3-1 OECD主要国のジニ係数の推移」では、2011年のドイツは0.293、2012年の日本は0.33、(同)米国は0.389となっている。

なぜ、中国では、このように貧富の差が大きいのか。同国には「相続税」、あるいは、固定資産税のような「財産税」がないからだろう。以前、中国共産党は「相続税」等の導入が考えていたようだが、結局、導入されていない。同党幹部らは、自腹を切ってまで富の再分配を行いたくなかったに違いない。

矛盾した新生児数

ところで、目下、中国共産党が危惧しているのは、「少子高齢化」社会の到来ではないだろうか。

まず、「少子化」だが、2020年には、出生数が1200万人となり、前年比265万人も減った(〔図表6〕)。

図表6

関連する投稿


習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

習近平「チベット抹殺政策」と失望!岸田総理|石井陽子

すぐ隣の国でこれほどの非道が今もなお行なわれているのに、なぜ日本のメディアは全く報じず、政府・外務省も沈黙を貫くのか。公約を簡単に反故にした岸田総理に問う!


中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

中国、頼清徳新総統に早くも圧力! 中国が描く台湾侵略シナリオ|和田政宗

頼清徳新総統の演説は極めて温和で理知的な内容であったが、5月23日、中国による台湾周辺海域全域での軍事演習開始により、事態は一気に緊迫し始めた――。


全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米「反イスラエルデモ」の真実―トランプ、動く! 【ほぼトラ通信3】|石井陽子

全米に広がる「反イスラエルデモ」は周到に準備されていた――資金源となった中国在住の実業家やBLM運動との繋がりなど、メディア報道が真実を伝えない中、次期米大統領最有力者のあの男が動いた!


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

ウクライナ戦争が引き起こす大規模な地殻変動の可能性。報じられない「ロシアの民族問題というマグマ」が一気に吹き出した時、“選挙圧勝”のプーチンはそれを力でねじ伏せることができるだろうか。


最新の投稿


【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

【読書亡羊】初めて投票した時のことを覚えていますか? マイケル・ブルーター、サラ・ハリソン著『投票の政治心理学』(みすず書房)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

【今週のサンモニ】暴力を正当化し国民を分断する病的な番組|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡!京都第一赤十字病院医療事故隠蔽事件 「12人死亡」の新事実|長谷川学

正常脳を切除、禁忌の処置で死亡――なぜ耳を疑う医療事故が相次いで起きているのか。その実態から浮かびあがってきた驚くべき杜撰さと隠蔽体質。ジャーナリストの長谷川学氏が執念の取材で事件の真相を暴く。いま「白い巨塔」で何が起きているのか。


トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

トランプ前大統領暗殺未遂と政治家の命を軽視する日本のマスメディア|和田政宗

7月13日、トランプ前大統領の暗殺未遂事件が起きた。一昨年の安倍晋三元総理暗殺事件のときもそうだったが、政治家の命を軽視するような発言が日本社会において相次いでいる――。


【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

【今週のサンモニ】テロよりもトランプを警戒する「サンモニ」|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。