世界が驚嘆する、月探査自動車
4月10日、当時の盛山正仁文部科学大臣とビル・ネルソンNASA長官との間で「与圧ローバによる月面探査に関する文部科学省と米航空宇宙局の実施取決め」が署名された。
この取り決めでは、NASAが月探査「アルテミス計画」において、日本人宇宙飛行士による月面着陸の機会を2回提供することが規定された。2032年までに2回、日本人宇宙飛行士が月に行く。しかも1回目は4年後の2028年に実現する見込みであり、米国人宇宙飛行士以外で初めて日本人宇宙飛行士が月面に降り立つのだ。
これだけのビッグニュースを、政府も自民党もあまり宣伝していない。私は衆院選の最中も最近の講演においてもこの話をし続けているが、日本人宇宙飛行士が月に行くことはほとんど国民の間で知られていない。非常に夢のある話であり、政府にも党にももっと宣伝するよう促している。
というのも、こうした結果に繋がったのは自民党が宇宙開発とその予算獲得に本腰を入れたことによるものだからだ。宇宙開発は最高峰の技術であり、この技術が将来的に民間製品や防衛技術に降りてきて活用される。日本が世界NO.1の技術立国を取り戻すためには宇宙開発に力を入れることが必須なのだ。その観点で、年間6000億円の宇宙予算を毎年度1兆円とするよう自民党「宇宙・海洋開発特別委員会」は5月に政府に提言し、その実現に向けて政府自民党は一体となって動いている。
すでに今年度、10年間で1兆円の「宇宙戦略基金」の創設を実現し、この基金からの繰り入れで、2024年度当初予算と23年度補正予算を合わせると宇宙関係予算は年間8945億円となり、前年度に比べ46%増やすことができた。
こうした予算編成のもと、米国の月探査「アルテミス計画」では、日本が世界初の技術開発を行うことになっている。それは、4月の両国間の取り決めにもあるように、日本が「与圧ローバ(宇宙ローバ)」を開発し月に持って行くというものだ。この「与圧ローバ」とは、月探査自動車のことで、車内の気圧を調整し、宇宙服を脱いで2人乗りで運転することができる。
すなわち、これまでの月探査はアポロ計画の映像のように、透明な球体のヘルメットをかぶり宇宙服を着て行っていたため行動範囲が限られたが、月探査自動車では月の裏側まで運転していって探査ができるため、月探査の行動範囲が飛躍的に広がる。世界が驚嘆する技術開発だ。
宇宙開発は日本の勝ち筋となっていく
では、なぜ月探査「アルテミス計画」は米国の計画なのに、日本に「与圧ローバ」開発が託されたのか。関係者の話を総合すると、米国は当初自国のビッグ3(フォード、GM、クライスラー)に開発を振ろうとしたが、2032年までの開発納期を守れるか不明であり、安全で正確に動くものができるかの観点で検討した結果、日本に開発を振ろうということになったとのことである。
予算も多額にのぼることから、日本にやってもらおうとなったが、米国が先行している宇宙開発においても、納期や正確性、安全性においては日本を頼ったわけである。現在、トヨタとJAXA(宇宙航空研究開発機構)が2032年に向け開発を行っている。
実は、日本は宇宙開発において世界に後れを取っていると思っている方がいるかもしれないが、世界で5番手の位置にいる。今年1月に日本は、無人月探査機「SLIM」を月に着陸させたが、月に探査機を着陸させたのは、米国、ロシア、中国、インドに次いで5カ国目である。
そして、「SLIM」は世界初のことを成し遂げた。それは月へのピンポイント着陸である。「SLIM」は狙った着陸地点を55cmしか外さなかった。これまでの各国の月探査機の着陸は「大体このあたりに降りられれば良い」という大ざっぱなものであったが、日本は狙ったところに着陸させた。宇宙空間においての精密誘導技術は、日本がNO.1となったのである。
これに加え、世界初の月探査自動車開発、米国人以外で初めて日本人宇宙飛行士の月着陸が行われる。日本は宇宙開発において、米国を追いかける位置まで直近でも進むことができると私は考えており、宇宙開発は日本の勝ち筋となっていくはずだ。
日本の新たな主力ロケット「イプシロンS」の燃焼実験の失敗や、民間ロケットの打ち上げ失敗などがあるが、失敗を恐れていては宇宙開発は進まない。イーロン・マスクのスペースXは失敗に失敗を重ねた上で開発に成功し、民間人の宇宙旅行も実現した。さらに、10月には、打ち上げたロケットの後段部分を発射台に戻して回収することに初めて成功した。失敗を重ねた次に、革新的技術の開発と成功があるのである。
日本は宇宙開発によって、世界NO.1の技術立国の地位を取り戻していく。来年は戦後80年。宇宙開発にさらに本格的に注力し、戦後100年には米国に並び、追い抜く宇宙開発国に日本をさせたいと思う。