フェンタニル等で米国は内乱状態?
トランプ大統領は就任直後から同盟国に対して、応分の防衛負担を求める発言を繰り返している。欧州には、従来のGDP比2%を大きく上回るGDP5%への引き上げを要求。これに対して、ドイツは昨年GDP比2%に達したと発表したが、トランプ大統領が求めている5%には及ばない。
トランプ大統領自身の発言ではないが、大統領が政策担当の国防次官に指名したエルブリッジ・コルビー元国防次官補代理は3月4日、台湾が中国の軍事的な脅威に立ち向かうために防衛費をGDPの「10%程度にすることが必要だ」と主張。コルビー氏は日本に対しても米議会公聴会にて「日本はGDPに占める防衛費の割合を少なくとも3%にまで引き上げるべきだ」と主張した。
米国は今、不法移民と共にメキシコやカナダを経由して流れ込むフェンタニル等の薬物、そしてLGBTや人種問題でほぼ〝内乱の瀬戸際〟にある。米国を立て直すには、警察や州兵だけでなく軍の力が必要になっているのだ。
米国内の治安が悪化した原因は多数あるが、その中でもフェンタニルという薬物中毒がもたらす社会の混乱はすさまじい。フィラデルフィアの街はフェンタニル中毒者でゾンビタウンと化し、中毒者が路上でふらふらと歩く姿は動画で撮影され、日本のテレビでも報道されている。
最大でモルヒネの100倍、ヘロインの50倍の効力を有するフェンタニルは、医療現場で用法や容量を守って使うには、即効性のある鎮痛剤として優秀な医薬品だ。しかし、その中毒性は高く米国社会に深刻な影響を与えている。
米国疾病予防管理センター(CDC)は、米国における薬物過剰摂取による12カ月間(2020年5月~2021年4月)の死亡推定数が初めて10万人を超え、死亡の64%が主に違法に製造されたフェンタニルや類似物に関係していると発表した。これは、アフガニスタン、イラク、ベトナム戦争で殺された米国人の総数よりも多い。もはやこの薬物対処は米国にとって国を守る戦争なのだ。
フェンタニルは中国からの原材料がメキシコやカナダに違法に流入しているとされるが、これを防ぐため、関税や国境警備を増強するなどの政策が検討され、実際に始まっている。メキシコは国境警備のために軍を配置したがそれだけでは全く足らない。米国内の治安維持のためにも、違法麻薬の流入を防ぐためにも世界に散らばった米軍を国内にも配置したいというのが米国の本音だろう。
応分の防衛負担を求める真の理由
米軍の米国本土(CONUS: Continental United States)での配置は大きく分けると3つになる。各々、以下の役割を担う。
・中心部(内陸):訓練と予備戦力・兵站支援
・西海岸:インド太平洋地域への迅速展開拠点
・東海岸:欧州・中東への展開と海上防衛の拠点
このように、米軍は米国本土を3つのエリアで機能的に分担し、有事の即応態勢を維持している。
米国本土に対して軍事力を行使する外敵がいない場合は、この西海岸・東海岸の軍隊を国外の治安維持や内乱鎮圧に動員する。現在は東海岸側の軍隊の一部をイスラエルに派遣、西海岸側の部隊はロシアからアラスカを守るために集結させているとの情報がある。このため、米国内の治安維持や内乱鎮圧、国境警備に西海岸・東海岸の軍隊を動員することが難しい状況にある。
米国が、自国を立て直すために軍を国内に引き上げたいと考えている理由はこれでおわかりいただけたのではないか。ただし、軍を引き上げるには、同盟諸国が各々強くなり、自国の紛争を米国の手を借りずに解決できるようにする必要がある。
それこそがトランプ大統領が、同盟国に応分の防衛負担を求める真の理由だ。