ロシアの全面侵攻は、米政府が声高に警告していたものの、ウクライナ人も含め、予測した人は多くなかった。それだけ、残虐な全面攻撃は、唐突かつ衝撃的だった。
野蛮な攻撃命令の背後で、プーチン氏の「異変」を指摘する見方もある。
トランプ米政権で国家安全保障会議(NSC)欧州ロシア上級部長を務めたフィオナ・ヒル氏は、「新型コロナ禍でプーチンは2年間隔離生活を強いられた。人に会わず、より感情的になり、極度に緊張している。何か不気味なことが起きているのではないか」と指摘した。
プーチン氏が最も信頼し、頻繁に会うのが、パトルシェフ安保会議書記、ボロトニコフ連邦保安局(FSB)長官、ナルイシキン対外情報局(SVR)長官ら旧KGBの元同僚だ。
「シロビキ」(武闘派)といわれる彼らは、KGB時代から強硬な反米思想を持ち、「ロシアの伝統的、精神的価値観」の優位性をことあるごとに主張する。「帝国復活」の願望を抱き、国内の統制を徹底し、軍事力を強化してきた。
行き着く先は破滅
政権担当22年になるプーチン氏はますます強硬化し、保守イデオローグとなった。異常な全面攻撃は、クレムリン中枢の異変が影響している可能性がある。
いずれにせよ、軍事的冒険主義の行き着く先が破滅であることは、歴史が証明している。(了)
拓殖大学海外事情研究所教授。1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から現職。国際教養大学特任教授。主な著書に、『北方領土はなぜ還ってこないのか』、『北方領土の謎』(以上、海竜社)、『独裁者プーチン』(文春新書)、『ジョークで読む国際政治』(新潮新書)など多数。