絶対に知っておくべき プーチンの誤った歴史観|名越健郎

絶対に知っておくべき プーチンの誤った歴史観|名越健郎

プーチン大統領はなぜ時代錯誤で野蛮な全面戦争を仕掛けたのか。ウクライナ攻撃命令を下した背景には、エカテリーナ女帝を崇拝するプーチン独自の歪んだ歴史観がある。名越健郎拓殖大学海外事情研究所教授が緊急寄稿!


プーチン氏は2008年4月のNATO・ロシア首脳会議で、ブッシュ米大統領に対し、「ジョージ、君は間違っている。ウクライナは国ではない。神がロシアに与えた特別な場所なのだ」と述べたことがある。

この時のNATO首脳会議は、ウクライナとジョージアを期限を決めずに将来、NATOに加盟させることで合意しており、プーチン氏はその決定に激怒したようだ。

4カ月後の8月、北京五輪開会式の日にロシア・ジョージア戦争が勃発し、ロシア軍がジョージアに侵攻、一カ月以上制圧した。これは、NATO加盟を切望し、反露外交を進めたジョージアへの懲罰攻撃だった。

領土を拡大したエカテリーナ女帝を崇拝

ただ、ロシアがそれ以降、ジョージアに圧力をかけることはなかった。ジョージアとウクライナは、プーチン氏にとって意味合いが異なる。ジョージアは異民族だが、ウクライナは家族の一員であり、弟分なのだ。

歴史書を読むのが趣味のプーチン氏は、帝政ロシアへの関心が強く、特にロシアの領土を拡大したエカテリーナ女帝を崇拝する。19世紀の女帝時代、ウクライナ東部やクリミアがロシア領土となり、「ノボロシア」(新しいロシア)と呼ばれ、多数のロシア人が入植した。プーチン氏にとって、ウクライナ東部は伝統的な「固有の領土」と映る。

レーニン、スターリンを非難

 プーチン氏は2月21日の演説で、独特の歴史観を語った。

「現代のウクライナはロシア革命直後にレーニンが作った。ロシア人が住む地域にウクライナ共和国を一方的に形成した」

「スターリンは大戦後、ポーランドやルーマニアから土地を奪い、それをウクライナに渡した」

「フルシチョフはロシアの領土だったクリミアを勝手にウクライナに移管した」
 などと歴代ソ連指導者を非難した。

旧ソ連国家保安委員会(KGB)出身のプーチン氏は、ソ連に思い入れがあると思われがちだが、実際にはレーニン、スターリンを酷評しており、返す刀で歴代皇帝を称賛する。自らを「皇帝」とみなしているかもしれない。

プーチン氏はさらに「ロシアにとってウクライナは単なる隣国ではない。それはロシアの歴史、文化、精神的空間に不可欠なものだ」と述べた。ロシアの一部であるウクライナが、NATO側に付くことは耐えられないのだ。

関連する投稿


人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国との「100年間の独立闘争」|石井英俊

人権弾圧国家・中国と対峙し独立を勝ち取る戦いを行っている南モンゴル。100年におよぶ死闘から日本人が得るべき教訓とは何か。そして今年10月、日本で内モンゴル人民党100周年記念集会が開催される。


「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】

月刊Hanada2025年9月号に掲載の『「習近平失脚説」裏付ける二つの兆候|長谷川幸洋【2025年9月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

終戦80年に思うこと「私は『南京事件』との呼称も使わない」|和田政宗

戦後80年にあたり、自虐史観に基づいた“日本は加害者である”との番組や報道が各メディアでは繰り広げられている。東京裁判や“南京大虐殺”肯定派は、おびただしい数の南京市民が日本軍に虐殺されたと言う。しかし、南京戦において日本軍は意図的に住民を殺害したとの記述は公文書に存在しない――。


旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

旧安倍派の元議員が語る、イランがホルムズ海峡を封鎖できない理由|小笠原理恵

イランとイスラエルは停戦合意をしたが、ホルムズ海峡封鎖という「最悪のシナリオ」は今後も残り続けるのだろうか。元衆議院議員の長尾たかし氏は次のような見解を示している。「イランはホルムズ海峡の封鎖ができない」。なぜなのか。


ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパ激震!「ロシア滅亡」を呼びかけたハプスブルク家|石井英俊 

ヨーロッパに君臨した屈指の名門当主が遂に声をあげた!もはや「ロシアの脱植民地化」が止まらない事態になりつつある。日本では報じられない「モスクワ植民地帝国」崩壊のシナリオ。


最新の投稿


「自動車王」も「英雄」も見事にはまった“陰謀論”|松崎いたる

「自動車王」も「英雄」も見事にはまった“陰謀論”|松崎いたる

「単なるデタラメと違うのは、多くの人にとって重大な関心事が実際に起きており、その原因について、一見もっともらしい『説得力』のある説明がされることである」――あの偉人たちもはまってしまった危険な誘惑の世界。その原型をたどると……。


埼玉クルド人問題から見えた自壊する自民党と躍進する参政党|石井孝明【2025年10月号】

埼玉クルド人問題から見えた自壊する自民党と躍進する参政党|石井孝明【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『埼玉クルド人問題から見えた自壊する自民党と躍進する参政党|石井孝明【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『【独占手記】我、かく戦えり|杉田水脈【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。


【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは  謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

【読書亡羊】ウクライナの奮闘が台湾を救う理由とは 謝長廷『台湾「駐日大使」秘話』(産経新聞出版)|梶原麻衣子

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】

月刊Hanada2025年10月号に掲載の『TBS報道特集の「差別報道」|藤原かずえ【2025年10月号】』の内容をAIを使って要約・紹介。