安全保障を学び直すには
大人になってから、という以上に、仕事や子育てが一段落してから、さらには自分の人生の終わり(着地地点)を意識する頃になって、その後の社会の行く末が心配になったり、世の中の様々な出来事にようやく目が向くという人も少なくない。
しかし時事ネタを扱う新聞や雑誌は基本的には「今」を切り取るスタイルであり、そもそも論を扱うのは得意ではない。書籍は一つの話題について深く知るには格好の媒体だが、選書を間違えれば難度が高く読んでも意味が分からない、読み通すこともできない、となり挫折してしまうこともあるだろう。
「こうした穴を埋めてくれる」という幻想を持ってしまうのが動画コンテンツで、世界史、時事ニュースはもちろん料理やお笑いといった趣味の領域に至るまで、初心者にもわかりやすく解説することを謳うものは増えている。
しかし一方で、事実関係がでたらめなもの、バズらせることを優先して極端な演出が施されているものも多く、「今の自分の知識レベルに合う、しかも内容も正確なコンテンツ」を探し当てるのは本来、至難の業だ。
「いや、気になっている単語で検索すればすぐに沢山出てくる」という人は、その動画内容の信憑性をもう一度見直してもらいたい。
安全保障分野はその最たるものかもしれない。指摘や説明がまっとうなものなのかを見定めるのは容易ではなく、特定のイデオロギーに塗り固められたものかもしれないし、虚実が入り混じることもある。
中高生向けだからこそ誤魔化しがきかない
「日本を取り巻く厳しい安全保障環境」というフレーズはニュースで耳にするけれど、何から読んだらいいか分からない。あるいは、そう訴える知人にどう説明すればいいか、あるいはどの本を渡したらいいか迷ってしまうこともあるだろう。相手が「なぜ戦争は起きるの」「軍事力がどうして必要なの」と聞いてくる子供でも同様である。
そんなケースにぴったりな一冊が刊行された。千々和泰明『世界の力関係がわかる本――帝国・大戦・核抑止』(ちくまプリマー新書)ある。
千々和氏は現在、防衛研究所国際紛争史研究室長を務め、防衛政策や戦争終結論の専門家。これまで多数の専門書や教養書を手掛けてきているが、今回は中高生向けのレーベルで安全保障や国際政治の基本のキを解説している。
「中高生が学ぶような国際情勢の基本ぐらい、わかっている」と侮るなかれ。内容のベースになっているのは青山学院大学で一年生向けに行われた講義であり、水準は「国際政治学の初学者」「大学教養」レベル。
しかも読者層が中高生と想定されているからこそ、国際政治用語や核抑止理論の説明はごまかしがきかない。本書では、知っているつもりだったこうした概念や「戦争はなぜ起きてしまうのか」という究極の問いに迫り、知らなかった人は新しい知見を得られ、知っているつもりだった人は改めて学び直すことができるのだ。