徹底検証!習近平の「台湾侵攻」は本当に可能なのか?|澁谷司

徹底検証!習近平の「台湾侵攻」は本当に可能なのか?|澁谷司

今年(2022年)2月24日、ロシアがウクライナへ侵攻した。それ以来、盛んに、台湾海峡危機とウクライナ危機が同列に語られている。本当に中国は「台湾侵攻」を決行するのか、徹底検証する。


昨年、シンクタンク「台湾民主基金会」は台湾国立政治大学選挙研究センターに依頼して、同年8月10日~15日にかけ20歳以上の1299人を対象にした世論調査(「台湾の民主的価値とガバナンス」)を実施した。12月29日、同基金会は、その調査結果を明らかにしている。

「台湾が『独立宣言』したが故に、中国が台湾侵攻した場合、台湾防衛のために戦うか」という設問では、「戦う」と回答した人は62.7%で、「戦わない」と回答した人は26.7%だった(「無回答」は10.6%)。

次に、「もし中国が台湾を統一する際に武力を使用したら、台湾防衛のために戦うか」である。「戦う」と答えた人が72.5%、「戦わない」という人は18.6%にとどまった(「無回答」は9.0%)。

結局、「中国が武力統一のため台湾へ侵攻する場合、与党・民進党支持者のうち90%が、野党・国民党支持者のうち過半数が『戦う』という考えを持つ」という。

この結果を見る限り、中国の「台湾侵攻」がそう簡単ではないことがわかるのではないだろうか。

米海軍少将マハンの金言

Getty logo

米海軍少将だったアルフレッド・マハン(1840年~1914年)は戦略研究家として名を馳せている。特に、マハンは「いかなる国も『海洋国家』と『大陸国家』を兼ねることはできない」と喝破した。マハンは第1次世界大戦開始直後に亡くなっているが、その金言は今もなお、生き続けているのではないか。

実際、世界の大国が「海洋国家」は陸で苦戦し、「大陸国家」は海で苦戦している。その失敗例を挙げてみよう。

【失敗例1】第1次世界大戦と第2次世界大戦で、「大陸国家」ドイツはUボート(潜水艦)でイギリス等に対抗したが、どちらも敗北した。

【失敗例2】第2次大戦前、「海洋国家」日本は中国大陸へ“進出”したが、結局、敗戦に至る。帝国陸軍は強かったが、やはり限界があった。

【失敗例3】第2次大戦後、「海洋国家」米国は朝鮮戦争で勝利を収めることができず、またベトナム戦争でも敗れている。

【失敗例4】「大陸国家」旧ソ連は、原子力潜水艦を製造して米国に対抗した。しかし、最終的に、ソ連邦という国家自体が崩壊している。

【失敗例5】21世紀初頭、「海洋国家」米国がアフガニスタンへ派兵したが、20年後の今年、アフガンから撤退せざるを得なかった。

近年、「大陸国家」中国が、空母を建造し「海洋国家」米国の覇権に挑戦している。けれども、その試みは、果たして成功するだろうか。大きな疑問符が付く。

おそらく、マハンの金言には、経済的側面も含まれているのではないか。つまり、得意な軍(「海洋国家」ならば海軍、「大陸国家」ならば、陸軍)ならばともかく、反対の苦手な軍(「海洋国家」ならば陸軍、「大陸国家」ならば海軍)を育てて訓練するには、膨大なコストがかかる。したがって、どんな大国でも優れた海軍・陸軍を同時に持つのは極めて困難なのかもしれない。

八方塞がりの中国経済

関連する投稿


ビジョンだけで国防や軍縮は達成できない|太田文雄

ビジョンだけで国防や軍縮は達成できない|太田文雄

願望の表明や、宣言、メッセージの発出は、戦略ではない。中国を核軍縮のテーブルに着かせるには、まず日米の側が同等の戦域核を持ち、戦力を均衡させることから始める必要がある。


立民の惨状ここに極まれり! 度量の狭い「攻撃型リベラル」議員たち|坂井広志

立民の惨状ここに極まれり! 度量の狭い「攻撃型リベラル」議員たち|坂井広志

今に始まったことではないが、特に昨今の立憲民主党の状況は「惨状」と呼ぶにふさわしく、目を覆うばかりである。学級崩壊ならぬ政党崩壊の道を着々と歩んでいるようにしか見えず、その動きは加速すらしている。党内抗争にうつつを抜かし、国益そっちのけで先進7ヵ国首脳会議(G7広島サミット)をこき下ろす――。その姿はあまりにも醜い。


【読書亡羊】必読、対中国「政治戦」の教科書を見逃すな!  ケリー・K・ガーシャネック著、鬼塚隆志監修、壁村正照訳『中国の政治戦 -「戦わずして勝とう」とする国への対抗戦略』(五月書房新社)

【読書亡羊】必読、対中国「政治戦」の教科書を見逃すな! ケリー・K・ガーシャネック著、鬼塚隆志監修、壁村正照訳『中国の政治戦 -「戦わずして勝とう」とする国への対抗戦略』(五月書房新社)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


林外相に問う!  エマニュエル大使の「LGBT関連発言」は内政干渉ではないのか|和田政宗

林外相に問う! エマニュエル大使の「LGBT関連発言」は内政干渉ではないのか|和田政宗

我が国における法整備は、我が国の国民や国民から信託を受けた国会議員が決めることであり、外国から何かを言われて進めるものではない!(サムネイルは「アメリカ大使館・領事館 US Embassy Tokyo & Consulates in Japan」チャンネルより)


「人道支援てこに拉致被害者救出」方針を米は理解|西岡力

「人道支援てこに拉致被害者救出」方針を米は理解|西岡力

家族会と救う会は2月に新運動方針を決めた。日本政府認定の拉致被害者だけでなく全拉致被害者の一括帰国という「時間的制約のある人道問題」と、北朝鮮の食糧難という人道問題を共に解決しようと金正恩政権に呼び掛けたものだ。


最新の投稿


LGBT法案 迷走する自民党の内幕|和田政宗

LGBT法案 迷走する自民党の内幕|和田政宗

特命委員会の役員は「懸念点は国会で十分な審議をし、払拭する」と党内の会議で我々に述べていたが、衆院内閣委員会での質疑は、10分×8会派で1時間20分、修正案についても約40分の計2時間だった――。


【読書亡羊】『土偶を読む』騒動を知っていますか 縄文ZINE編『土偶を読むを読む』(文学通信)

【読書亡羊】『土偶を読む』騒動を知っていますか 縄文ZINE編『土偶を読むを読む』(文学通信)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする週末書評!


【埼玉県川口市 クルドの現場を行く②】地元住民の苦悩|西牟田靖

【埼玉県川口市 クルドの現場を行く②】地元住民の苦悩|西牟田靖

入管法改正案についての報道が相次いでいる。そのトーンは反対一色。難民を認定しない日本政府や入管は悪、翻弄される外国人は善――という非常に単純化された報道ばかり。その一方、不良外国人の迷惑・犯罪行為に困る地元住民の声はほぼ封殺されたままだ。


原子力規制委の抜本的改革が必須|奈良林直

原子力規制委の抜本的改革が必須|奈良林直

柏崎刈羽原発で東電の社長を厳しく追及し、社員のやる気をなくさせているのが現在の原子力規制委の山中伸介委員長。電力事業者の取り組みがうまくいかないのは、規制委の采配が下手だからだ。我が国でも米国のように、規制委の抜本的改革が必要である。


広島サミット成功と浮かれていいのか|田久保忠衛

広島サミット成功と浮かれていいのか|田久保忠衛

お祭り騒ぎや日本式のおもてなしではどうにも片付かない冷厳な現実が待ち受けている。己を知らない国に救いはない。