バイデン大統領で日本は最悪事態も|島田洋一

バイデン大統領で日本は最悪事態も|島田洋一

「ジョーは過去40年間、ほとんどあらゆる主要な外交安保政策について判断を誤ってきた」オバマ政権で同僚だったロバート・ゲイツ元国防長官は回顧録にこう記している。バイデンの発言のあとに、そのとおりの行動が続くと考えてはならない。土壇場で梯子を外された場合を想定して、その収拾策も用意しておく必要がある。


政権内に親中左派が続々と

トランプには企業経営者として、中国相手に時に煮え湯をのまされた経験があった。副大統領のペンスもインディアナ州知事として、ある程度貿易交渉に携わっていた。  

その点、長年ワシントンの水にのみどっぷり浸かってきたバイデンにも、検事出身で上院議員一期目のハリスにも、中国に関する「現場感覚」は期待できない。  

バイデンは現状維持・微修正志向であり、ハリスは「期待できない未知数」である。トランプより強硬な路線を取るとは到底思えない。  

加えて、上院ではバーニー・サンダース、下院ではアレクサンドリア・オカシオコルテスを旗頭とする民主党内極左グループが強く論功行賞人事を求めてくるだろう。政権内に親中左派がかなり入り込むかもしれない。  

日本は今後、着実に日本企業の脱中国化を進めていかねばならない。アメリカからの圧力が緩むから何となく中国に居続ける、いわんや進出を拡大するとなると、人間と資産の両面で「人質」を増やし、身動きが取れなくなる。  

バイデンに決断力がないと言っても、1979年のソ連アフガニスタン侵攻のような事態を中共が引き起こすなら、議会の圧力も受け、制裁発動のやむなきに至るだろう。弱腰と言われ続けたジミー・カーター大統領も、対ソ強硬派に豹変した。  

その時、多数の人質企業を中国に抱えていると、日本は破滅的な損害を被ることになろう。  アメリカがどこまで本気で対中締め付けに取り組んでいるかは、大統領や国務長官をはじめとする政権幹部の演説や法律文を見るだけでは分からない。  

制裁法や役所のガイドラインがあっても、違反する企業や国は必ず出てくる。意図的に違反せずとも、あらゆる制裁には微妙なグレーゾーンが存在する。中国相手の取引を続けたい、あるいは新規に始めたい企業は、自らに都合のよい解釈、すなわち「おそらく引っ掛からないだろう」といった姿勢を取りがちである。  

したがって制裁を実効あらしめるには、積極的な摘発によってグレーゾーンを極力狭めていく努力が欠かせない。すなわち「厳格な法執行」である。  

巨額の罰金を科せられたり、経営幹部が逮捕起訴されたりといったニュースを目にして、初めて関係企業は、君子危うきに近寄らずとの判断に傾いていく。

トランプの的確な指示

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この点、トランプ政権は、対中国で加速度的に法執行を厳格化させてきた。2020年6月末以降、ポンペオ国務長官はじめ政権幹部4人による対中圧力強化を主題とした連続演説が行われたが、そのなかに違法行為を捜査する責任者であるクリストファー・レイ連邦捜査局(FBI)長官、訴追と公判維持の責任者であるウィリアム・バー司法長官という法執行部門のトップが2人入っている(詳細は本誌2020年10月号の拙稿「ポンペオ国務長官+三演説の破壊力」参照)。  

この人選の意図は明らかである。レイは捜査機関を代表して、次のように述べている。

「現在、FBIは10時間に1件の割合で中国絡みの防諜事案の捜査を始める状態にある。全米で捜査中の5000件の事案のうち、ほぼ半数が中国に関連している」  

そのうえで、捜査中の中国関連事案のうち、1000件以上がテクノロジーの窃盗に関連していると強調した。  

続く演説でバー司法長官が起訴件数に言及し、「連邦における経済スパイ起訴事案のうち、約80%が中国国家を利するだろう行為に関連している」と指摘した。  

要するに、捜査と起訴の二段階において異例の「中国シフト」を敷いたという宣言である。  

盗聴や本人の許可なしの所持品検査などは法律上、FBIにしか認められない。しかしスタッフ数や予算はじめ、FBIの捜査資源には限りがある。常時あらゆる方面から捜査依頼のある膨大な事案を、一定の優先順位に基づいてふるいに掛けていかねばならない。  

選別は一義的にはFBI長官が行うが、国家安全保障にかかわる重大事案については上部組織である司法省も関与し、司法長官は大統領の意思を最重要の選別基準とする。すなわち、FBIと司法省が揃って「中国シフト」を敷く状況は、トランプ大統領の明示的な指示なしにはあり得ない。  

実際、2020年9月に米ABCテレビが、「内部情報によれば、トランプ大統領がFBIに対し、防諜絡みの捜査はロシアでなく中国を最優先せよと指示していた」とあたかもスキャンダルの如く報じたが、メディアと野党が空想的次元まで膨らませた「ロシア疑惑」などではなく、本命である中国情報機関のほうに捜査の力点を移すようトランプが的確な指示を発した、と素直に評価すべきだ。  これを怪しい行為の如く報じるあたりに、主流メディアの度し難い「トランプ錯乱症候群」が見て取れる。  

捜査においては職業スパイや違反企業に留まらず、大学など研究機関も要注意ターゲットとなる。  2020年1月28日、FBIが、ハーバード大学の化学・生物部門のトップ、チャールズ・リーバー教授を、中共との協力を申告せず米政府から補助金を受け取った虚偽陳述の容疑で逮捕した。  間髪を容れず、司法省が同教授を起訴している。超名門ハーバードの指導的教授の逮捕、立件となれば、当然大ニュースとして世界を駆け巡る。一罰百戒のアナウンスメント効果を狙い、かねてFBIと司法省が連携して的を絞っていたわけだろう。  

レーガン政権もかつて、テクノロジー封鎖を対ソ締め付けの焦点と位置づけ、輸出規制違反の起訴件数を、前任のカーター政権時代の約600倍にまで増やした。日米関係を揺るがした東芝機械事件もそうした文脈で起こっている。  

その間、他の案件の捜査や起訴は相当程度棚上げになるわけで、このレベルの「シフト」は大統領の指示なしにはあり得ない。

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