国際政治が、アメリカを中心とする自由主義陣営と中国共産党政権(以下中共)が本格的に対立する「新冷戦」時代に入ったと見るべき時、バイデンの基本的な対中政策観は、彼のかつての対ソ政策観と大差ないのではないか。
バイデンの発想では、ソ連崩壊といった「不可能な夢」を描いて締め付けを強めるレーガン的行き方は、危険きわまりない冒険主義である。そうではなく、安定を旨として、二国間交流を深め、半永久的な平和共存の枠組作りを追求する、いわゆるデタント(緊張緩和)政策の立場こそが現実的で、かつ正しい。
時計の針を巻き戻すだけの男
しかし、デタントの欠陥は、「パートナー」たるソ連が侵略主義を捨てない点にあった。ソ連側は、勢力圏を認めあって安定的共存を図るという「暗黙の合意」に忠実を装いつつ、実際には、米ソ正面の安定を奇貨として、中南米、中東、アフリカなどの周縁部で、親ソ政権の樹立を目指した工作活動を続けた。米ソ関係の安定と周縁部の掘り崩しは、ソ連戦略においてはどこまでもセットであった。
ちなみに、オバマ政権時代に習近平が米側に持ち掛けた「新型大国関係」も、同様の狙いを秘めたものだったと言える。 この時、中共側の意図に気付かず、二つ返事で受け入れようとしたのがスーザン・ライス大統領安保補佐官(当時)だった。ライスは何らかの形でバイデン政権入りすると見られている。日本として、最も警戒すべき人事の一つである。
こうしたデタント的な偽りの安定を脱し、「悪の帝国」ソ連共産党の弱体化を本格的に進めようとしたのがレーガン大統領であった。
一方、レーガンの政策を危険で愚かと非難し、ことごとく阻止を図ったバイデンの立場は、旧来のデタント政策への展望なき回帰に過ぎなかった。
バイデンは中共との戦いにおいても、レーガン的なトランプ路線を放棄し、ただ漫然と時計の針を巻き戻すだけの男となりかねない。
発言と行動のギャップ
次期大統領がトランプ、バイデンどちらであろうが米国の厳しい対中姿勢は変わらない、という声をよく聞く。しかし、そう楽観(中共や宥和派から見れば悲観)はできない。
たしかに、中共の人権蹂躙や知的財産窃取を批判する発言のレベルでは大差ないかもしれないが、問題は行動である。バイデンは、とりわけ発言と行動のギャップが大きいと評されてきた政治家である。
バイデン自身、2007年に出した回顧録に、自分は次のような批判に晒されてきたと記している。
・しゃべり過ぎる。
・論理でなく感情に動かされる。
・汗をかいて結果を出す姿勢に乏しい。
あるベテラン記者は、以上を「ジュージューと焼き音はするがステーキが出てこない」と端的に総括している。
すなわち、立派な演説はするが、結果につなげる政策構想力、決断力に乏しい。「いまはもう克服した」とバイデン本人は言いたいのだろうが、実績に照らせば大いに心もとない。