バイデン大統領で日本は最悪事態も|島田洋一

バイデン大統領で日本は最悪事態も|島田洋一

「ジョーは過去40年間、ほとんどあらゆる主要な外交安保政策について判断を誤ってきた」オバマ政権で同僚だったロバート・ゲイツ元国防長官は回顧録にこう記している。バイデンの発言のあとに、そのとおりの行動が続くと考えてはならない。土壇場で梯子を外された場合を想定して、その収拾策も用意しておく必要がある。


国際政治が、アメリカを中心とする自由主義陣営と中国共産党政権(以下中共)が本格的に対立する「新冷戦」時代に入ったと見るべき時、バイデンの基本的な対中政策観は、彼のかつての対ソ政策観と大差ないのではないか。  

バイデンの発想では、ソ連崩壊といった「不可能な夢」を描いて締め付けを強めるレーガン的行き方は、危険きわまりない冒険主義である。そうではなく、安定を旨として、二国間交流を深め、半永久的な平和共存の枠組作りを追求する、いわゆるデタント(緊張緩和)政策の立場こそが現実的で、かつ正しい。

時計の針を巻き戻すだけの男

しかし、デタントの欠陥は、「パートナー」たるソ連が侵略主義を捨てない点にあった。ソ連側は、勢力圏を認めあって安定的共存を図るという「暗黙の合意」に忠実を装いつつ、実際には、米ソ正面の安定を奇貨として、中南米、中東、アフリカなどの周縁部で、親ソ政権の樹立を目指した工作活動を続けた。米ソ関係の安定と周縁部の掘り崩しは、ソ連戦略においてはどこまでもセットであった。

ちなみに、オバマ政権時代に習近平が米側に持ち掛けた「新型大国関係」も、同様の狙いを秘めたものだったと言える。  この時、中共側の意図に気付かず、二つ返事で受け入れようとしたのがスーザン・ライス大統領安保補佐官(当時)だった。ライスは何らかの形でバイデン政権入りすると見られている。日本として、最も警戒すべき人事の一つである。  

こうしたデタント的な偽りの安定を脱し、「悪の帝国」ソ連共産党の弱体化を本格的に進めようとしたのがレーガン大統領であった。  

一方、レーガンの政策を危険で愚かと非難し、ことごとく阻止を図ったバイデンの立場は、旧来のデタント政策への展望なき回帰に過ぎなかった。  

バイデンは中共との戦いにおいても、レーガン的なトランプ路線を放棄し、ただ漫然と時計の針を巻き戻すだけの男となりかねない。

発言と行動のギャップ

次期大統領がトランプ、バイデンどちらであろうが米国の厳しい対中姿勢は変わらない、という声をよく聞く。しかし、そう楽観(中共や宥和派から見れば悲観)はできない。  

たしかに、中共の人権蹂躙や知的財産窃取を批判する発言のレベルでは大差ないかもしれないが、問題は行動である。バイデンは、とりわけ発言と行動のギャップが大きいと評されてきた政治家である。

バイデン自身、2007年に出した回顧録に、自分は次のような批判に晒されてきたと記している。

・しゃべり過ぎる。
・論理でなく感情に動かされる。
・汗をかいて結果を出す姿勢に乏しい。  

あるベテラン記者は、以上を「ジュージューと焼き音はするがステーキが出てこない」と端的に総括している。  

すなわち、立派な演説はするが、結果につなげる政策構想力、決断力に乏しい。「いまはもう克服した」とバイデン本人は言いたいのだろうが、実績に照らせば大いに心もとない。

関連する投稿


【読書亡羊】トランプとバイデンの意外な共通点  園田耕司『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵』(朝日新聞出版)

【読書亡羊】トランプとバイデンの意外な共通点 園田耕司『覇権国家アメリカ「対中強硬」の深淵』(朝日新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

プーチンは「内部」から崩れるかもしれない|石井英俊

ウクライナ戦争が引き起こす大規模な地殻変動の可能性。報じられない「ロシアの民族問題というマグマ」が一気に吹き出した時、“選挙圧勝”のプーチンはそれを力でねじ伏せることができるだろうか。


「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

「もしトラ」ではなく「トランプ大統領復帰」に備えよ!|和田政宗

トランプ前大統領の〝盟友〟、安倍晋三元総理大臣はもういない。「トランプ大統領復帰」で日本は、東アジアは、ウクライナは、中東は、どうなるのか?


トランスジェンダー予備自衛官の本音|小笠原理恵

トランスジェンダー予備自衛官の本音|小笠原理恵

バイデン大統領は2021年1月25日、トランスジェンダーの米軍入隊を原則禁止したトランプ前大統領の方針を撤廃する大統領令に署名した。米軍では大統領が変わるごとにLGBTの扱いが激変――。だが、自衛隊ではお互いに理解を深めつつ共存している。その一例をご紹介しよう。


首相から危機感が伝わってこない|田久保忠衛

首相から危機感が伝わってこない|田久保忠衛

ハマスやレバノンの武装勢力ヒズボラをイランが操り、その背後に中露両国がいる世界的な構図がはっきりしてこよう。


最新の投稿


【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

【今週のサンモニ】「サンモニ」の”恐喝”方法|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

「子供1人生んだら1000万円」は、とても安い投資だ!|和田政宗

チマチマした少子化対策では、我が国の人口は将来半減する。1子あたり1000万円給付といった思い切った多子化政策を実現し、最低でも8000万人台の人口規模を維持せよ!(サムネイルは首相官邸HPより)


【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは  『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

【読書亡羊】出会い系アプリの利用データが中国の諜報活動を有利にする理由とは 『トラフィッキング・データ――デジタル主権をめぐる米中の攻防』(日本経済新聞出版)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

【今週のサンモニ】岸田総理訪米を巡るアクロバティックな論点逃避|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

改正入管法で、不法滞在者を大幅に減らす!|和田政宗

参院法務委員会筆頭理事として、改正入管法の早期施行を法務省に働きかけてきた。しかしながら、改正入管法成立前から私に対する事実無根の攻撃が始まった――。