あらゆる外交政策に失敗
決断力の欠如については、アルカイダの首領オサマ・ビンラディン除去作戦(2011年5月2日)の際の逡巡が典型例である。
副大統領候補テレビ討論会でマイク・ペンス副大統領も指摘していたが、バイデンはテレビカメラを直視し、指をさす得意のポーズで「ビンラディン、お前に安息の地はない、地の果てまでも追いかけ、必ず正義の鉄槌を下す」との趣旨をたびたび語っていた。
ところがいざビンラディンの隠れ家が特定され、海軍特殊部隊による襲撃作戦を実行する段になって腰が引けた。 「失敗すると厄介な政局になりかねない」と最後まで慎重論を唱えたのである。失敗とは、特殊部隊や女性、子供に死者が出る一方、ビンラディンは取り逃がす、といった場合を指す。繰り返し大見得を切りながら、実行段階に至るや、うまくいかないケースを懸念して先送りを図るあたりがバイデンらしい。「焼き音はするがステーキが出てこない」と評される所以である。
オバマ政権で同僚だったロバート・ゲイツ元国防長官は回顧録に、「ジョーは過去40年間、ほとんどあらゆる主要な外交安保政策について判断を誤ってきた」と記している。今回の大統領選の終盤、メディアからこの評価を変えるつもりはあるかと訊かれたゲイツは「そのつもりはない」と答えている。
オバマ政権における「テロとの戦争」の最大の成果は、バイデンの反対をオバマがはねのけたがゆえに得られたものであった。
日本政府は決して、バイデンの目力のこもった断固たる発言のあとに、そのとおりの行動が続くと考えてはならない。とりわけ重要課題に関しては、本人および周辺に最後まで念を押し、釘を刺し続けねばならない。土壇場で梯子を外された場合を想定して、その収拾策も用意しておく必要がある。
オバマ時代に戻りかねない対中政策
対中政策においては、バイデンはトランプ流の積極攻勢路線を捨て、オバマ時代の平和共存、微調整路線に戻ろうとするだろう。 バイデンはトランプと違って、自分は同盟国との協調や多国間の枠組を重視すると強調してきた。一見、日本にとって好都合な話に聞こえる。 しかし、中国の体制転換といった歴史的課題に取り組むに当たっては、同盟国の政府や企業であれ、足を引っ張る行為に対して制裁で臨む冷徹さも必要である。 典型例が、「中共の情報機関、保衛機関の傘下企業」(オブライエン安保補佐官)と言われる情報通信機器最大手ファーウェイへの対応である。 米議会の強硬保守派とトランプ政権がタッグを組んで進めたファーウェイ排除に、同盟国の多くは消極的だった。バイデンが言うように、コンセンサスを重視し、とりわけ消極的なドイツの説得に時間を費やしていたなら、今頃、5G(第5世代移動通信システム)市場はファーウェイに席巻されていただろう。情報通信の世界は展開が早い。同盟国間の合意形成に過度にこだわるならば、それ自体が中共を利する行為となる。
イギリス、次いでフランスが当初の消極姿勢を変え、ファーウェイ排除に動いたのは、トランプ政権が同社と取引のある企業をアメリカ市場から締め出す方針を明確にしたためである。取引の存在を隠して米国で商売を続けた場合は、巨額の罰金に加えて経営幹部の逮捕や収監もあり得る。
個々の企業は中共の報復やいやがらせに弱い。制裁を振りかざすアメリカの圧力に逆らえない、と言い訳できる状況は一種の救いでもある。その意味で、米政府が中共に厳しいと同時に同盟国に対しても容赦ない存在でなければ、現実問題として、同盟国の結束は得られないだろう。
5Gネットワークからのファーウェイ排除を、安倍政権はアメリカの同盟国中、最も早く決めた。トランプが安倍に信頼を寄せたのは、こうした行動があってのことである。
バイデン政権が、対中共でどの程度同盟国に厳しく結束を迫れるかは、通商代表や商務長官、国務長官、あるいはホワイトハウスの安保補佐官、貿易担当補佐官に誰を起用するかにも拠る。