2003年、SARSが発生した当時は胡錦濤政権が発足したばかりで、共産党内で改革派が大きな力を持ち、国際社会における中国の評価を気にしていた時代だった。
WHOなどの国際組織もまだ機能しており、SARS蔓延直後にWHOが北京に調査団を派遣し、北京市内の軍が直営する301、309病院や中日友好病院などを調査している。
ところが病院側は、同調査団が到着する数時間前に、SARS患者たちを救急車に乗せて市内を走らせるなどの「患者隠し」を行っていた。このことがのちに外国メディアに報じられ、メンツが丸つぶれとなった胡錦濤指導部は、当時の北京市長と衛生相を更迭した。
しかし、現在は習近平氏とその周辺がメディアをコントコール下に置いており、国際社会の評価をあまり気にしていないばかりか、金銭外交でWHOをはじめ、多くの国際組織の主導権も握っている。WHOのテドロス事務局長は、エチオピア外相時代から、中国からの多額な支援を手にしたことで中国と昵懇になり、その後、中国の力によっていまのポストに就いたといわれる。
中国の言うことを何でも聞くテドロス氏は今回も中国の対応を何度も絶賛し、中国の意向を汲んで、緊急事態宣言を出すのが一週間遅れた。そのことによって感染が世界中に広がった。
現に、外国でいち早く感染症が拡大している国は、中国と関係の近い国ばかりだ。主要国首脳会議(G7)で唯一、中国の巨大経済圏構想、一帯一路を支持したイタリアや、中東で中国と最も関係の近いイランの被害が深刻化したのは、中国の言うことを鵜みにし、感染症が拡大し始めた頃、無防備に中国人を大量に入国させたことが主な原因の一つだといわれている。
嘘の裏にある人権弾圧
「感染症との闘いに勝利した」
中国政府が世界に対して堂々とこう宣言している背景には、国内のインターネット規制を強化したほか、真実を伝えようとする人々への徹底弾圧がある。
武漢市中心医院の医師、李文亮氏はその一例だ。李氏は2019年12月下旬、別の医師から「武漢市で正体不明の肺炎が流行っている」との情報を知り、それを通信アプリ「微信」のグループチャットに書き込んだ。知人に対し外出を控えるように呼び掛けただけだが、その直後に警察から呼び出された。
警察は長時間にわたる取り調べをして、反省文を書かせて厳重注意をして釈放した。李氏とほぼ同時に当局から注意を受けた医療関係者は計八人いたが、中国官製メディアは、武漢市の警察が「デマを広めた容疑者」を八人検挙したことを大きく報じ、「社会秩序を乱す行為は許されない」との解説記事もつけられた。
このことが、武漢市民に「病気のことをインターネットに書くと犯罪者になる」という恐怖心を植え付けた。
「この8人の検挙がなかったら、インターネットで武漢ウイルスがもっと早く話題になり、被害を小さく抑えられたはずだ」と、中国の人権派弁護士は分析する。