以前からネット規制が厳しい中国で、今年3月1日から、史上最も厳しいインターネットの書き込み規制「ネット情報コンテンツ環境管理規定」が施行され、経済や社会の秩序を乱す情報の徹底的な取り締まりが始まっている。「ネットコンテンツの制作者は国益を損なってはならない」との規定を盛り込み、中国政府や共産党の功績を否定する内容をはじめ、重大な自然災害や事故に関する「正しくない情報」や「ふさわしくない評論」を全面的に禁止した。
違反者には、罰金や最大15日間の拘束のほか、重大な結果をもたらした場合は起訴もあり得る。新規定は、武漢発の新型コロナウイルスを意識して作られたといわれている。
一般民衆にとって最も厄介なのは、武漢ウイルスに関する情報を転送した場合、「微信」の個人アカウントが閉鎖され、使えなくなってしまうことだ。利用者が10億人を超えるといわれる「微信」は、もはや中国人の生活の一部で、アカウントが閉鎖されれば、仕事や交友関係に重大な影響が出かねない。そのため、武漢ウイルスに関する情報の転送を皆が控えるようになっている。新規定は当局が狙ったとおりの効果をあげている。
そこで、検閲に引っ掛かりそうな言葉に代わって隠語が使われるようになったのだ。
武漢ウイルスを「中国版チェルノブイリ」と表現する知識人たち
ソ連が「中国」の隠語になった理由は、1986年4月にソ連で起きたチェルノブイリ原子力発電所の事故からの連想だ。原発事故当初、現場の共産党幹部とソ連当局が事故を隠蔽し、その後も杜撰な対応を繰り返したため、大惨事となった経緯がある。そこで、中国の知識人たちは、今回の武漢ウイルスを「中国版チェルノブイリ」と表現している。ちなみに「北京」の隠語はモスクワで、「武漢」の隠語はチェルノブイリになっているという。
実は、「武漢ウイルス」の隠語は3月中旬までは約100年前に流行った「スペイン風邪」だった。中国の各都市の地名はスペインの都市名によって代替されていたが、途中から中国当局に気付かれ、スペイン風邪関連のキーワードは全て「敏感言葉」つまり、取り締まりの対象となった。 「チェルノブイリ関連の隠語が使えなくなるのも時間の問題だが、その時はまた、新しい隠語がすぐに出てくるでしょう」と、北京在住の知識人は話している。