その動きとは、米国各地の大学で起きているイスラエルによるガザ地区への攻撃に対する抗議デモだ。反イスラエル・新パレスチナ派の学生らは、バイデン政権によるイスラエル支援への反対表明や、パレスチナ・ガザ地区での戦闘停止、大学によるイスラエルに関連する投資撤退の要求などを行っており、一部は要求が通るまで大学構内を占拠する姿勢を取っている。彼らはガザ地区での「大量虐殺」に自分たちのお金が使われていることに対して黙っていられないという。そういった背景のデモが、米西部のカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、米中部のウィスコンシン大学マディソン校、米東部のニューヨークのフォーダム大学やジョージ・ワシントン大学、かつてベトナム戦争当時も反戦を訴える学生たちの拠点となっていたコロンビア大学などを始め、全米の大学に拡大しており、警官隊との衝突が各地で発生するなど、激化している。
UCLA構内では、警察が爆音筒や閃光弾などを使いながら、バリケードやテントの撤去を行っている。日本での全学連や全共闘時代の混乱を彷彿とさせる。デモをめぐる逮捕者は、この2週間のうちに計2,300人を超えている(5月5日時点)。逮捕者の中には外部の扇動者も含まれている。BBCによると、デモの数は、少なくとも45州の約140校に広がっている他、少なくとも他の6カ国でも同様の抗議が行われている。
大統領選に影響を与えた「Black Lives Matter (BLM)」
このような混乱は、実は以前にも米国で見られた。それも、前回大統領選が行われた年である2020年にだ。その理由は、トランプが初勝利した2016年の大統領選においても人種差別問題で大きな影響を与えた「Black Lives Matter (BLM)」という黒人人権運動の存在によるものだ。
BLMは、2020年5月に起きた黒人男性ジョージ・フロイド氏の死亡事件を受けて抗議運動を活発化させた。それが急進左派の「アンティファ(Anti-Fascist Action)」というネオナチやファシズム、白人至上主義者、差別主義などに強く反対する暴力的な反ファシスト運動と混ざり合いながら、略奪・放火・破壊・暴行などを含む複数都市での暴動へと発展した。この一連の混乱は、略奪や損害を受けた450以上のニューヨーク市の企業を含め、全米で4億ドル以上の損害をもたらしたと言われる。また、ワシントン州シアトルでは、抗議者たちによって「自治区」が設置され、警察から強制的に排除されるまで約3週間占拠が続いた。
当時大統領であったトランプは、中でもアンティファを「米国はテロリスト組織として指定する」とSNSに投稿したり、それについて選挙演説中に繰り返し言及するなどした。また、暴動のカウンターとして、白人至上主義を露骨には受け入れないものの、白人優越主義的な思想にこだわる傾向とされる極右グループ「プラウド・ボーイズ」の存在感も出た。そのグループの是非が、トランプ対バイデンの大統領候補者討論会で議題に上がる程であった。つまり、BLMに起因する一連の混乱が、大統領選にも大きく影響したのだ。
BLMであるが、米国内が「イスラエル支持一色」であった中、黒人たちがいち早く「パレスチナ支持」を明確にしたことや、BLM運動の活動家から下院議員になったコリー・ブッシュ氏らが連邦議会で初めて「即停戦」の決議案を上げたことを指摘する声も上がっている。2020年の大統領選に引き続き、イスラエル・ガザを巡る動きでも、BLMの存在や影響は無視できないことが伺える。