前線の状況に大きな変化がなく、ウクライナでの戦争についてのニュースが少なくなっているが、ここで私はロシア内部の動きに注目したい。ロシア連邦の中西部に位置するバシコルトスタン共和国(ロシア連邦に21存在する共和国の1つ)において、1月15日から数千人規模の大規模デモが連日起き、多数の逮捕者を出す騒ぎとなっている。
2022年2月に始まったウクライナ侵攻以降、ロシアでは反政府活動への取り締まりが強化されており、このような無許可デモが大々的に起きたことは異例中の異例で、最大規模のものとなった。催涙弾が乱れ飛び、治安部隊が民衆を殴打する映像がネット上にも流れている。3月の大統領選挙を前にして、ロシア内部で大きな混乱が起きたことは注目に値する。
私は昨年8月、ロシア連邦からのバシコルトスタンの独立を訴えて活動しているバシキール人のリーダーで、リトアニアに亡命しているバシキール国民政治センター代表のルスラン・グバエフ氏に東京で会った。私もグバエフも、第7回「ロシア後の自由な民族フォーラム」に登壇し、2日間行動を共にした。「ロシア後の自由な民族フォーラム」については過去の2記事(「日本は世界で最も重要な国のひとつ|オレグ・マガレツキー×石井英俊」と「ロシア外務省から激烈な抗議|石井英俊」)を参考にしてもらいたい。
ロシアの民族問題というマグマ
グバエフの説明によると事情は次のようなものだ。
デモは、バシキール人の環境活動家フェイル・アルシノフ氏が不当に逮捕され、17日に裁判で懲役4年の実刑判決を受けたことに対する抗議活動として巻き起こった。フェイル・アルシノフは15年以上にわたってバシコルトスタンにおいて公的または政治的活動に従事してきており、権威ある人物とのことだ。アルシノフが率いていた「バシコルト」という組織が「過激派」と認定されたため、その後、アルシノフは政治家としての活動を停止して、バシコルトスタン共和国の生態系保護のために活動していた。天然資源が豊富なウラル山脈地域には、さまざまな外国企業が進出しており、地元住民のために環境保護活動に取り組んでいたのだ。
ある抗議集会においてアルシノフが「バシキール人は、最終的に自然が破壊されれば、自分たちの土地からどこにも行くことができない。他のどんな人でも、例えばタタール人ならタタールスタンへ、ロシア人ならヴォロネジ(ロシア南西部の都市)へ、アルメニア人ならアルメニアへ行くことができるが、バシキール人にはバシコルトスタンしかない」と強調したところ、バシキール語で話していたこのアルシノフの言葉を、あたかも「他民族を追放せよ」と呼びかけていたかのようにFSB(ロシア連邦保安庁)が歪曲(意図的誤訳を)して、民族憎悪を煽った罪で不当に逮捕した。アルシノフの裁判への抗議活動が15日から巻き起こったため、判決が17日に延期され、数千人のデモ隊と治安部隊が衝突し、この日少なくとも15人以上が逮捕された。