これまでも様々な外交文書ではウイグルと香港のみが言及されるなど、4地域がそろっていたわけではない。しかし今回は事情が違ったはずである。なぜならば、昨年(2022年)2月の衆議院、同12月の参議院において「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が圧倒的賛成多数で成立しているからだ。
この国会決議においては、「新疆ウイグル、チベット、南モンゴル、香港等における深刻な人権状況」と4地域の名前が全て明記された。公明党への譲歩が大きすぎて余りにも骨抜きにされ過ぎた国会決議だったが、この4地域の名前を一つも削らずに列記することだけは、最後まで守り抜いた。特に筆者がこだわった部分でもあった。
議長国としてコミュニケの原文を書いたであろう外務省は、この国会決議に4地域の名前が列記されたことをどれほど重く考えていたのだろうかと甚だ疑問に感じざるを得ない。日本は南モンゴルについても書き込むように主張したが、他国の賛同を得られなかったのか、それともそもそも念頭になかったのか。残念ながら、チベット、ウイグル、香港に比べると、南モンゴルに対する認識は世界に広がっているとはまだまだ言えない状況だ。その意味でも、モンゴルと歴史的に深いつながりを持つ日本こそが、南モンゴル問題を世界に訴える使命があると筆者は考えている。G7広島首脳コミュニケから南モンゴルが抜け落ちていたことは、まさに現在の状況を端的に表していると言えるだろう。
中国の南モンゴル問題を長年訴えてきたモンゴル人ジャーナリストであり、モンゴル国民のムンヘバヤル・チョローンドルジ氏が、モンゴル国において不当逮捕され懲役10年もの判決を受けて現在服役中であることについて、度々レポートしてきた。「中華人民共和国に対するスパイ活動に従事した」として、ムンヘバヤルはモンゴル国によって逮捕投獄されたのだ。中国と戦っていたところ、中国政府の代わりに、中国政府の意向を受けたモンゴル国政府が不当逮捕するという異常事態であることや、それに対して日本の南モンゴルを支援する国会議員連盟(会長高市早苗衆議院議員)が対応して動いていること、さらには世界の人権団体が多くの釈放要求の声をあげていることを解説してきた。
一連の経緯について未読の方は、「国民栄誉賞受賞ジャーナリストの不当逮捕に習近平の影(2023年2月17日公開)」と「不当逮捕された国民栄誉賞受賞ジャーナリストの獄中記(2023年3月31日公開)」をぜひご一読いただきたい。
下記において紹介する「なぜ世界は南モンゴルを無視するのか」は、今年8月ごろにムンヘバヤルが獄中において書いた記事である。「アメリカ・ニューヨークに本部を置く南モンゴル人権情報センターに送ってモンゴル語の原文を英訳し、同センターから全世界に向けて発表してほしい」とのムンヘバヤルからの強い希望によって、今月(10月)刑務所に面会に訪れたムンヘバヤルの家族と弁護士に手渡されたものだ。英語版は同センターのウェブサイトにおいて10月25日に発表されている。筆者は、家族と同センターの了解を得て、英語版からの再翻訳によって日本語版を作成した。
以下、モンゴル国の首都ウランバートルにある421番刑務所内の、ムンヘバヤルの獄中からの訴えである。