構成上の大きなミス
ケント・ギルバート氏についてはほぼノーカットで採用したようで、反対派論陣の要になっているが、櫻井よしこ氏もわずかしか出てこないし、唯一の学者である藤岡信勝氏も慰安婦問題そのものについては多くを語っていない。
推進派のほうは、吉見義明(歴史学者)、林博史(歴史学者)の他にも中野晃一(政治学者)、阿部浩己(国際法学者)、小林節(憲法学者)などの諸氏の他、韓国からもイ・ナヨン(社会学者)キム・チャンロク両氏(法学者)など、多数の学者が登場する。ソウル大学のイ・ヨンフン教授のように、慰安婦性奴隷説に異を唱える実証主義的な韓国人学者もいるが、まったく無視されている。映画構成上の最も基本的なところで大きなミスがある。
■【慰安婦20万人説】
この数字に関して、ギルバート氏と藤木氏が、「そんなに大勢の慰安婦がいて、一日に何十回も性行為を強要されたとしたら、日本兵は一日に6回もセックスをしなきゃならない計算になる」と主張する。するとデザキ氏は、「以上の計算はひとまずおくとして、20万人という数字はどのように算出されたのか?」と吉見氏に水を向ける。
吉見氏はこう説明する。
「日本の陸海軍の軍人数は、最大で350万人くらいですが、最前線には慰安所がなかったと仮定すると、ある時点で300万人くらいの兵隊に対して慰安所がつくられたと仮定します。日本軍の場合には100人に一人の割合で慰安所を設置するという基準を持っていますので、そうすると3万人という数字が出ますよね。で、仮に半分入れ代わったとすると45000で、全体で一度入れ替わったとすると6万という数字が出ますので、まぁ最低で5万くらいかなと」
質問は20万人の計算根拠だったはずだが、全く答えになっていない。挺対協のユン・ミヒャン氏にいたっては、「私たちは研究者による数字を用いているに過ぎません」と言う。
また、女たちの戦争と平和資料館の渡辺美奈氏は「大きな人権団体などが、慰安婦問題についてレポートを書く、と。そのとき相談をされれば、20万人という数字は使わずにもう少しアバウトな数を使うことを勧めます。40万人と聞けば、40万人という数字を使おうと思うんです。わざわざどれが一番いいかと考えずに、多いほうを使うということも多分あると思うんですね」と正直に答えている。
この議論で、20万人という数字はまったく根拠がないことがわかる。吉見氏がするような説明を聞いていつも思うのだが、「仮定」が多すぎる。また、「最低でも5万くらい」というのは需要の話である。仮に5万人の需要があったとしても、戦争の最中に5万人供給できた保証はどこにもないのだ。