従軍慰安婦映画『主戦場』の悪辣な手口|山岡鉄秀

従軍慰安婦映画『主戦場』の悪辣な手口|山岡鉄秀

いまから2年ほど前、ミキ・デザキという上智大学の院生を名乗る青年が、保守論壇でお馴染みの言論人にアプローチしてきた。「慰安婦問題に焦点を当てたビデオドキュメンタリーを作りたいから取材させてほしい。修士修了プロジェクトです」というのだ。


何が慰安婦問題を大きな国際問題にまで発展させてしまったか。それを考えるには、何が日本政府に対する当初の糾弾(Original Accusation)だったのかを思い出す必要がある。

朝日新聞と吉田清治という詐話師が広めた話はこうだ。

「朝鮮半島で日本の軍隊が民家から若い女性を引きずり出して拉致し、日本兵のための性奴隷にしたり、女子挺身隊として徴用されたあとに慰安婦にしたりした。その被害者は20万人にも上る」

まさか大新聞社が完全な虚偽報道をするとは思わなかったので、当時の日本人は(米国人のケント・ギルバート氏を含めて)しばらくの間信じてしまった。

しかし、やがてそれが荒唐無稽な作り話であることがわかり、日本国民は憤激した。朝日新聞は、デザキ氏が映画内で言うように政府に圧力を掛けられたのではなく、世論に抗しがたくなって虚偽を認めて記事を撤回し、社長も辞任した。

しかし、世界では依然として上記の「糾弾」が独り歩きし、次々と慰安婦像が建てられ、歴史的事実として碑文に書き込まれていった。証拠が薄弱であるとわかると、被害者のほとんどは証拠隠滅のために日本軍によって殺されたというさらなる虚偽が加えられた。明らかに、この問題を政治的に利用しようとする勢力が存在する。

だから、もともと慰安婦に同情していた日本人も反論せざるを得なくなってしまったのだ。そして、その状況は悪化するばかりである。

「主戦場」を見てもわかるように、吉見氏を筆頭とする性奴隷説推進派は、明らかに極端に誇張された糾弾が事実ではないことを知っているのだが、それを繰り返す反日活動家たちを窘めるよりも、技術的(technically)には強制連行で性奴隷だったと解釈できるという、もともとの糾弾内容から離れた議論を継続しながら日本だけを悪魔化し、結果として反日団体の活動を是認している。まるで、この問題が永遠に継続されることを望んでいるかのようだ。

慰安婦問題は、韓国政府や反日活動家たち、そしてデザキ氏のような性奴隷説推進派たちが「日本が加害者で韓国が被害者」という単純で一方的な構造に固執する限り、解決することはないだろう。

最近、Thomas J. Ward と William D. Layという米国コネチカット州にあるブリッジポート大学の二人の学者が、米国の公園に建てられる慰安婦像に関する論文を発表した(Park Statue Politics : World War II Comfort Women Memorials in the United States)。

この論文の結論は、「慰安婦像は韓国側のストーリーだけを伝えているので不十分である。現実には、韓国人が女性集めを商売として慰安婦制度のなかで大きな役割を演じていたし、戦後も独自の慰安婦制度を運営した。また、米軍兵士も戦後慰安婦制度を利用した。米国に建てられる慰安婦像は政治的問題を引き起こすもので、責任の所在を明確にするものでも、和解を促すものでもない」というものだ。

デザキ氏の『主戦場』も、慰安婦像と同じ役割しか果たさないことは明白だ。問題解決を遠ざける偏ったジャーナリズム、いや、プロパガンダに過ぎない。

最後に、大変僭越なのを承知のうえで、保守系言論人の方々に助言したい。将来、取材依頼があったら、たとえ大学院生でも、必ず素性をチェックすることだ。もしその依頼者がユーチューバーで、自身の動画のなかで女装して登場し、「ちんちん欲しい!」と叫んでいたら、おそらくその依頼は断ったほうがいいだろう。

(初出・月刊『Hanada』2019年6月号)

英訳はこちら(English Version)

著者略歴

山岡鉄秀(Tetsuhide Yamaoka)

https://hanada-plus.jp/articles/206

情報戦略アナリスト。日本国際戦略研究所(DMMオンラインサロン)主宰者。公益財団法人モラロジー研究所研究員。1965年、東京都生まれ。中央大学卒業後、シドニー大学大学院、ニューサウスウェールズ大学大学院修士課程修了。22014年4月豪州ストラスフィールド市で中韓反日団体が仕掛ける慰安婦像公有地設置計画に遭遇。シドニーを中心とする在豪邦人の有志と共に反対活動を展開。オーストラリア人現地住民の協力を取りつけ、一致団結のワンチームにて2015年8月阻止に成功。現在は日本を拠点に言論活動中。著書に、国連の欺瞞と朝日の英字新聞など英語宣伝戦の陥穽を追及した『日本よ、もう謝るな!』(飛鳥新社)など。

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