従軍慰安婦映画『主戦場』の悪辣な手口|山岡鉄秀

従軍慰安婦映画『主戦場』の悪辣な手口|山岡鉄秀

いまから2年ほど前、ミキ・デザキという上智大学の院生を名乗る青年が、保守論壇でお馴染みの言論人にアプローチしてきた。「慰安婦問題に焦点を当てたビデオドキュメンタリーを作りたいから取材させてほしい。修士修了プロジェクトです」というのだ。


この人数をめぐる議論の結論は「20万人説には根拠がない」となるはずだが、デザキ氏は次のように結論する。

この議論からわかることは、これらの数字は、

  • 明らかに両陣営から政治的意図をもって利用されてきた。
  • 修正主義者たちはこの数字の算出方法を理解していないようだ。
  • 慰安婦について実際のデータは存在しない。

よって、概算の言及には注意が必要だ。

数字を政治利用しているのは、明らかに性奴隷説推進派のほうである。また、「修正主義者たちはこの数字の算出方法を理解していないようだ」は全く意味不明だ。吉見氏の主張も含めて、もちろん検証されているに決まっているではないか。デザキ氏が、これらのインタビューの外では全く学習していないことがわかる。

この20万人という数字が独り歩きし始めたきっかけは、朝日新聞の1992年1月11日付の朝刊である。朝日は用語解説として、次のように書いた。

「従軍慰安婦 1930年代、中国で日本軍兵士による強姦事件が多発したため、反日感情を抑えるのと性病を防ぐために慰安所を設けた。元軍人や軍医などの証言によると、開設当初から約8割が朝鮮人女性だったといわれる。太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した。その数は8万とも20万ともいわれる」

要するに、慰安婦と勤労奉仕の女子挺身隊という全くの別物を混同したことに起因する数字なのである。

これを遡ると、70年代に「従軍慰安婦」という言葉を創作した千田夏光という作家に突き当たる(慰安婦は存在したが、従軍慰安婦という職業は存在しなかった)。千田は著書のなかで、知人から入手したソウル新聞の切り抜きのなかに、「1943年から45年まで、挺身隊の名のもと若い朝鮮婦人約20万人が動員され、うち5万人ないし7万人が慰安婦にされた」と書いてあったと主張した。

しかし、研究者が該当記事を探したところ、実際には「挺身隊に動員された女性は日韓合わせて20万人で、そのうちの5万~7万人が朝鮮人女性だった」という記述だったのである。つまり、慰安婦とは何の関係もなかった。

朝日新聞は2014年8月になって、慰安婦と挺身隊を混同したことを認めて該当記事を撤回した。

このように、何の根拠もない数字が、慰安婦問題を政治外交問題化したい勢力に政治的に利用され続けているのが実態なのだ。これも西岡氏のような研究者が入っていれば容易に指摘できたことだ(参考:『朝日新聞「日本人への大罪」』西岡力、悟空出版)。

【強制連行】

2007年の安倍首相による国会答弁が流れる。

「まぁいわば、官憲が家に押し入っていって、人さらいのごとく連れていくという、そういう強制性はなかったということではないかと、こういうことでございます」

これに対して、「性奴隷」という言葉をわざわざ創作して国連に持ち込んだ戸塚悦朗氏が、こう反論する。

「その強制っていうのを安倍さんは、縄で縛って連れて行ったって言ってるわけ。だけどね、強制っていうのは法律上で言うと『自由意志でない』っていうことなんですよ。自由意志でないっていうのは、騙された場合も自分の本当の意志ではない。そうするとね、大部分の韓国からの女性は騙されたんですよ」

ここでいきなり、強制連行が「騙された」に変換してしまう。

ギルバート氏、藤木氏が「女性のリクルートは主に朝鮮人業者が行い、騙したケースもあったと思われる」と答え、杉田水脈氏が「当時の新聞記事を見ると、日本政府や軍(総督府や警察)が悪徳業者を逆に取り締まっている、そういう新聞記事がいくつも残っている」と付け加える。すると、林博史氏がこう反論する。

「朝鮮半島の新聞記事は慰安婦とは全然関係ない。警察は従来から悪徳業者が騙して売春目的で連れて行こうとするのは取り締まっていたが、軍の依頼であれば黙認して処罰しなかった」

警察が悪徳業者の犯罪行為に関して、軍の依頼に基づくかどうかで取り締まったり黙認したりできたのか。以前、そのような主張を聞いたことがあるが、結局根拠がなかった。そんなことをしたら治安が維持できないはずだが、林氏にはぜひ詳細な証拠を映画内で示していただきたかった。

結局、話はいつものパターンでインドネシアで発生したスマラン慰安所事件に飛ぶ。オランダ人女性が強制的に慰安婦にされた事件だ。この事件に関しては、報告を受けて調査した日本軍将校によって慰安所は閉鎖され、女性たちは救出された。

この点をギルバート氏が指摘すると、吉見氏がこう反論する。

「それは被害者が白人女性で、連合国側から責任を追及されることを恐れたからであって、アジア人女性を解放したというケースは聞いたことがない。明らかに、白人女性に対する対応とアジア人に対する対応が違っていると言えるのではないか」

この主張も推論の域を出ていないのだが、デザキ氏はこう結論する。

「インドネシアの件は動かぬ証拠だ。朝鮮人女性が強制連行されたという証拠はないかもしれないが、国際批判のリスクを犯してまで白人女性を連行したことを鑑みると、アジア人女性にそうしたであろうことは想像に難くない」

ここでもまた想像だ。推論や想像ばかりして、いったい何のために議論を設定したのか?スマラン慰安所事件は、当時においても刑事犯罪である。このような刑事犯罪が朝鮮半島や他の地域でも発生した可能性があるという推論はできるが、朝鮮半島で大勢の一般朝鮮人女性が軍隊によって強制連行されたという推論には結びつかない。だから戸塚氏も、「騙したのも強制のうちだ」という議論をしているのだ。完全に循環論法に陥っているのがわからないのか?

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