中途半端な「9条2項維持」
──安倍前総理が示した「憲法9条1項、2項維持・自衛隊明記」には賛成ということですか。
玉木 9条の2項を残したまま、自衛隊を明記する。つまり、戦力不保持と立派な戦力である自衛隊、この矛盾がこのままでは永遠に解消されません。いままでと同じような不毛な憲法議論が続いてもいいのか。この議論から自衛隊の皆さんを解放してあげないと、かわいそうですよ。
現実的だという評価もあるでしょうが、私は安倍前総理のこの案は極めて中途半端、場当たり的であり、あまり評価はしていません。であれば、9条の2項を削除したほうがいい。
自衛隊という組織を明記することは、憲法議論としてはそれほど重要ではない。むしろ、自衛隊が行使する「自衛権」の範囲をきちんと憲法のなかに定義づけるほうが重要ではないでしょうか。
──自衛権行使の範囲を明確化することなど本当にできるのでしょうか。
玉木 簡単だと思いますよ。いちばんシンプルなのは、いまの新3要件を書くこと。
①密接な関係にある他国への武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある。
②我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がない。
③必要最小限度の実力行使にとどまる。
限定とはいえ集団的自衛権はダメだと主張する人は、旧3要件を憲法に書けばいいじゃないですか。①我が国に対する急迫不正の侵害があること。
②これを排除するために他の適当な手段がないこと。
③必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。
なぜ、こういう議論をしないのか。
個別的自衛権に限るという人ほど憲法は一言一句いじるなと主張しますが、いじらない憲法のなかで無限に解釈が拡がっていることは許している。矛盾していると思いますよ。
憲法上、個別的自衛権しか認められていないと主張するのであれば、個別的自衛権を憲法に書けばいい。なぜ、その改正を主張しないのか。
「習近平国賓来日」は絶対ダメ
──中国の王毅外相が「日本の偽装した漁船が絶えず釣魚島周辺の敏感な海域に入っている。このような船を入れないようにすることが大事だ」などと無礼な発言をしましたが、尖閣についてはどのように。
玉木 ぎりぎり実効支配はしていますが、これだけ連日、中国当局の船が侵入しているわけですから、なぜ茂木外相は反論しなかったのか。私はあの場で反論すべきだったと思います。
尖閣がこのような危機的状況にあるなかで、習近平国家主席を国賓として招くようなことは絶対にすべきではない。国賓として招くことは、いまのこの状況を容認するというメッセージになりますからね。
バイデンさんが尖閣諸島は日米安保条約第5条の適用対象であると明言したことはよかったとは思いますが、米国にどう守ってもらうかよりも、わが国の手で尖閣をどう守るかのほうが重要です。海保も沖縄県警も海自も頑張ってくれていますが、いまのままで実効支配が保てるのか。不十分だと思います。
──憲法改正の機運が高まってこないのは、具体的な事例を挙げないからではないですか。たとえば、尖閣の場合だと現憲法があるからここまでしかできない、憲法改正すればここまでできるようになるといった事例を挙げれば共感する国民も増えると思いますが。
玉木 尖閣が守れないのは憲法上の制約ではないと思います。2019年に、我々国民民主党はグレーゾーン事態に切れ目なく対処できるよう「領域警備法案」を提出しました。
これから先、尖閣で何が起きうるかというと、「漁民」に武器を持たせた民兵が1,000隻から3,000隻の漁船で尖閣に押し寄せてくる、もうひとつは、ドローンを何千機も飛ばしてくる、ということが想定されます。
新たな事態に対して、日本は対応することができない。自衛隊を出動させると、中国側から「おまえらが先に軍隊を出してきた」と言われてしまう。警察権では対応できないけど、軍隊を出すと向こうに付け入る隙を与える、白でもない黒でもないこのグレーゾーンを彼らは狙ってくる。
いま非常に憂慮しているのが、中国海警局の所属が変わり、軍の指揮下に置かれたということ。中国海警局の任務や権限を定めた法律の草案には、武器使用を認めると明記されている。警察比例の原則があるので、向こうが上げたらこっちも上げないと対応できません。
いずれにしても、日本の法制度上このグレーゾーン対応が非常に弱い。法整備ももちろんですが、艦船、人員の数を増やす必要がある。実効支配が非常に難しい方向になりつつあるということを、国民にも理解していただく必要がありますね。