憲法改正に他国が介入する危険性
──2020年11月26日、憲法審査会で国民投票法の改正案をめぐる実質的な審議がようやく行われましたが、立憲民主党と共産党は「さらなる議論が必要だ」とやはり後ろ向きです。
玉木 中身はまったく問題ないんですよ。駅の構内やショッピングセンターなどでも国民投票ができるようにすることは、いまの国政選挙でも行われていることです。
一般の投票と同じように、投票の利便性を高めるための7項目を改正しましょうということですから、まったく問題ありません。立憲民主党と共産党は、この先に行くと改憲発議が待っている、だから反対だというロジックなんでしょう。
この改正案が国会に提出されてから2年以上も経っている。速やかに採決し、次の課題に移るべきです。我々は賛成しますよ。
CM規制や外国人寄付規制、この2点を議論し解決していくほうがよほど重要です。たとえば、憲法を改正しようというときに国民投票運動というものをやるのですが、その運動に対して外国人の寄付をまったく禁止していないんですよ。
さらに、ネット広告がテレビや新聞を抜きましたが、この広告にもまったく制限がない。この2つを組み合わせると何が起きるかと言えば、どこの国とは名指しはしませんが、ある国の勢力がお金を大量に入れて、この改正はダメですよというプロパガンダを日本国内で展開することが可能です。
護憲派だけでなく、実は保守派のほうも理解が足りない。米国の大統領選挙を見ればわかるように、外国の重要な選挙に他国が介入することはよくあるわけで、この点をしっかり押さえておかなければ、憲法改正が他国によって歪められてしまう。
──安倍政権が掲げた改憲4項目(自衛隊の明記・緊急事態対応・合区解消・教育充実)については賛成ですか、反対ですか。
玉木 必ずしも賛成ではありません。2012年の自民党憲法改正草案との関係がよくわからないんですよ。どっちが生きていてどっちが死んでいるのか、と尋ねても曖昧な返事しか返ってこない。
──石破茂さんは、2012年の改憲草案にこだわっていますよね。
玉木 そうですね。いいか悪いかは別にして、2012年の改憲草案のほうが体系的ですよ。
本丸は憲法9条ですが、自民党内でもまとまっていないのでこの問題は後述するとして、緊急事態条項についてはコロナ時代とどう向き合うかが重要であり、憲法改正しなくても法律でできると思いますね。
唯一できないのは、戦争やコロナのような緊急事態で選挙ができないときに、国会議員の任期をどうするのかという点。延長できるようにするためには憲法改正が必要です。
教育の無償化についても法律でできるので、やってもやらなくてもどっちでもいいというのが正直なところです。維新のために書いているのかな(笑)。
合区解消については議論は必要でしょうが、個人的には賛成です。徳島と高知の合区の選挙を戦いましたが、1台の街宣カーで広い範囲を回らなければいけない。1票の格差の問題もわかりますが、候補者の声を聞く権利を有権者から奪っているのも事実。日本は地方をもっと大事にすべきです。
ヨーロッパがなぜ地方を大事にするかと言えば、国境線だからですよ。地方とか田舎に住んでいる人を軽んじると、すぐ他国から侵略されてしまう。日本は幸か不幸か海に囲まれていますから、周辺の部分を軽んじる傾向がありますね。
国境線をどう守っていくのか、この観点からも地方の在り方を考える必要があるでしょう。
平和主義の定義とは何か
──国民民主党は先日(2020年12月7日)、条文案を含む憲法改正に向けた論点整理を発表しましたが、なぜいまだったのでしょうか。
玉木 いままではできなかったからですよ(笑)。
憲法は「国のかたち」を示すものですから、1項、2項を取り出して云々ではなくて、序文も含めてやはり全体像を示さなければならない。そうしなければ、我々が何を考えているのか、国民に示すことはできない。
野党から全文、つまり包括的な憲法改正条文案が出ることはいままでなかったこと。我々はこれを持って全国を回り、国民の皆さんの意見を聞いていこうと思っています。
●憲法9条
⑴日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
⑵前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
──憲法9条についてはどのように。
玉木 憲法9条の議論、安全保障の議論の本質は、日本という国はどういうときに武力行使をするのか、もっと突っ込んで言えば、どういう時なら戦争をするのかという境界線を国民と共有するプロセスにあります。
まずは、自衛隊を軍隊として位置づけることが大前提。そのうえで、自衛権の範囲をきちんと憲法に書き込むことが重要です。
日本国憲法の3大原則のひとつである平和主義。では、この平和主義の定義とは何なのか。非武装中立で真っ裸で立っていることが平和主義ではない。かといって、地球の裏側にミサイルを撃ち込むことも平和主義ではない。非武装中立から現在の米国の中間、おそらくそこに日本の平和主義があるのではないでしょうか。
自分の国は自分で守ることが基本ですが、中国の台頭、米国が世界の警察官ではなくなりつつあるなかで、日本はどこまでやるのか、どこからはやらないのか、しっかり議論していきたい。