【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

【我慢の限界!】トラックの荷台で隊員を運ぶ、自衛隊の時代錯誤|小笠原理恵

米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だ。しかし、日本はどうであろうか。訓練や災害派遣で、自衛隊員たちは未だに荷物と一緒にトラックの荷台に乗せられている――。こんなことを一体、いつまで続けるつもりなのか。


座骨神経痛やヘルニアは自衛隊の職業病

2025年4月、衆議院安全保障委員会において、立憲民主党の伊藤俊介議員は「自衛隊員の生活、勤務環境、待遇改善は非常に大事だ」と発言した。

立憲民主党は、「平和主義を空文化させる」との理由で、自衛隊を憲法9条に明記する案に反対の立場だ。また、民主党政権時、鳩山由紀夫首相が海上自衛隊の観艦式に欠席するなど、自衛隊を軽視する姿勢も見受けられた。しかし、伊藤議員は、自衛隊員の待遇改善を目的とした「自衛隊員の応援議員連盟」の発起人であり、この議連には立憲民主党内から138人を超える議員が参加。安全保障委員会所属議員も全員が加わっているという。立憲民主党が「自衛隊員を応援する政党」になったことは、大きな変化だ。

伊藤議員の質疑はトラック荷台輸送のリスクを中心に据えたものであった。
「座骨神経痛やヘルニアは自衛隊の職業病とすら言われている。防衛省は健康影響を把握しているのか? 公務災害として認定しているのか?」との問いに、防衛省は「因果関係の特定は難しい」と答弁。公務起因と認められた場合のみ災害認定されるというが、伊藤議員は「認定されなければ保障がない。“ブラックボックス”になりやすい。仕組みを見直すべきだ」と指摘した。

訓練や災害派遣で、隊員たちは荷物と一緒に荷台に乗せられている。座席や3点シートベルトはなく、あるのは硬い板だけ。振動は足腰に大きな負担を与える。だが、隊員を一生苦しめる腰痛や足腰の障害が、公務災害認定される例はまれだ。もし、バスや一般車両で安全に移動していたら、防げたかもしれない。これだけでも若者が自衛隊への入隊を躊躇する十分な理由になる。

「2度とあんな輸送はやめてほしい」

米軍出身で現在は軍属である米国人がこう述べている。

「米軍では最も高価で大切な装備は“軍人そのもの”だと、在日米軍を訪問した際に関係者から聞いた。大事な軍人を消耗させることなく、最良の状態で前線に送るため、前線では冷暖房完備の装甲輸送車で安全が確保されている。日本の自衛隊では未だにトラックの荷台輸送が常態化しているが、本当にそれで良いのだろうか?」

トラック荷台輸送を経験している自衛隊員は、腰痛や坐骨神経痛を抱えることも少なくない。特に陸上自衛隊で顕著だ。航空自衛隊や海上自衛隊では船舶や航空機による輸送もあり、基地間の大量の陸上輸送の機会は比較的少ない。しかし、陸上自衛隊では演習や訓練において他府県をまたぐ移動があり、災害派遣時にもトラック荷台輸送が行われる。一般の乗用車のシートとは異なり、クッションもない荷台に毛布を敷いて振動に耐えながら移動する。

拠点間移動のためトラックの荷台で輸送された経験を持つ元海上自衛官はこう証言している。

「荷台には背もたれがない。振動が続くなか、背筋を保って座り、木の板をぎゅっと握っていなければ怖かった。気を抜くと背後のパイプの隙間からお尻が滑り落ちるリスクがあり、1時間程度の移動だったが足や腰が痛くなった」

たった1度の経験でも「2度とあんな輸送はやめてほしい」と強く訴えていた。どう考えても、健康な自衛隊員の身体をいたずらに損耗させているだけではないだろうか。

また、トラック荷台輸送では3点式のシートベルトやエアバッグも存在しない。自衛隊側もリスクを認識しているため、荷台輸送時には隊員にヘルメットを装着させているが、それだけで事故による死亡・重傷のリスクを防ぎきれるわけではない。

2006年2月には兵庫県福崎町内の中国自動車道で、陸上自衛隊の大型トラックが後続の大型トラックに追突され、荷台に乗っていた隊員1名が死亡、12名が重軽傷を負う事故も発生している。

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