ついに身の危険を感じるように
いずれにせよ、これで3社に出版を断られ、海外の出版社も視野に入れ始めたのが2018年の1月頃でした。その時、ある人からハーディー・グラントという小規模な出版社を教えてもらい、電話してみると「言論の自由は大事です。わが社で出版させてください」とすぐに返事をくれて、めでたく2018年の2月に出版の運びとなったわけです。
本書はこれまで国内で4万部売れました。この数字はオーストラリアではベストセラーを意味します。世界中の言語にも翻訳され、中国語(繁体字)版は台湾の出版社が手がけてくれました。国際的にも注目されていることを実感しています。
そのなかで不思議だったことは、2018年の本書出版後に、日本のメディアや大手新聞社の記者から、取材の申し込みが殺到したことです。
すぐに私は、日本でも政財界などへの北京の浸透や影響力の行使は大きな問題になっていることに気づきました。ただし、それを意識しているのはごく一部の少数の人々で、それ以外の大多数は何も知りたくないという態度のようですね。
取材に来た日本の方々が言っていたのは、本書が日本語で翻訳されたら、北京の手法が日本でも使われていることが明らかになる、ということでした。もちろん、本書で取り上げる事例はオーストラリアですが、中国共産党はまったく同じ手法を日本でも使っています。
さらに本の出版後に、奇妙なことが次々と起こりました。最初に大学や警察から気をつけろと言われたのがサイバー面でのセキュリティーで、実際におかしなEメールが私のアカウントに大量に届くようになりました。また、私のオフィスに見知らぬ人が突然訪ねてくるようになりました。私が出入りする大学のカフェには、さらに頻繁におかしな人々が現れるようになったのです。
オーストラリア政府の公安関係者に会うようになったのも、本書刊行の影響です。身の安全をどう確保すればよいか、どのようなことに気をつければよいか、教えてもらいました。
自宅に強盗が
本書の内容についても、極めて多くの人々から辛辣なコメントや批判を受けたため、精神的に不安な時期もありました。発売当初は出版イベントなどもなるべく行わず、やるとしても警備員を多く配置するなど、かなり気をつけたつもりです。
ニュージーランドに、中国共産党を専門に研究しているアン=マリー・ブレディという学者がいます。私の本が出た数週間後、彼女の自宅に盗みが入りました。その数カ月前の2017年後半には、彼女の大学のオフィスに空き巣が入っていた。とうとう家までやられてしまったわけです。
私の所属する大学も、私の身辺の安全を深刻に懸念するようになり、以前はかなりオープンだった私のオフィスも「ロックダウン状態」と化し、セキュリティーカメラが設置され、定期的に警察の車が来るようになったのです。