1990年代中頃、300万人の北朝鮮住民が飢え死に、20万人以上が行方不明になった大飢饉が起きたことはよく知られている。その地獄を生き延び、韓国に亡命した脱北者ハン・ソンオク氏(42歳)が、2019年7月31日、幼い息子キム・ドンジン君(6歳)と一緒に自宅で死体で発見された。食べものが溢れるソウル中心の賃貸住宅で餓死したのだ。
キム・ドンジン君は癲癇にひどく苦しんでおり、母親のハン・ソンオク氏が彼を家に置いて仕事に出ることができない状態が続いていた。ところが、ハン・ソンオク氏は中国に韓国系中国人の夫がいるとし、韓国政府の福祉支援対象から排除されていたのだ(脱北ブローカーたちが脱北女性たちを中国の田舎の男たちの妻にあてがい、金儲けをする犯罪行為が横行しており、ハン・ソンオク氏もこの中国人の夫に売り渡された)。
中国人の夫はいつも酒に溺れ、ハン・ソンオク氏に対して日常的に暴力を振るっていた。息子のドンジン君がお腹にいたときに蹴られたのが、彼が癲癇にかかった原因でもあった。そのような理由から、ハン・ソンオク氏は夫と離婚したくてもできず、韓国に一人逃げてきた経緯がある。
「救いを求める電話」を拒絶した脱北者支援機関
病気を患う息子を育てながら働くことができない状況に陥ったハン・ソンオク氏は、月に9万ウォンの電気代と水道代をはじめとする公共住宅料金を数カ月間滞納した。賃貸住宅公社から家の電気と水道を止められたハン・ソンオク氏は、地域の住民センターに行き、事情を話して助けを求めたという。三度ほど訪ねたが、住民センターは彼女が保護対象ではない、と説明するだけだった。
脱北者支援機関の南北ハナ財団は、年間約400億ウォンの予算が支援されている政府の管轄機関だが、文在寅の意向を受け脱北者支援など一切せず、彼女からの救いを求める電話がかかってくるたびに話の途中で電話を切り、対話を拒絶したという。
2人の遺体は死後2カ月あまりが経って、水道検針員によって発見された。彼女の預金残高は〇ウォン、家の冷蔵庫は空っぽで、唐辛子の粉が半スプーンほど残った容器だけが置いてあったという。 北朝鮮の地獄を生き抜いたハン・ソンオク氏とキム・ドンジン君は、食べものが溢れ、犬さえもダイエットをしているソウルのど真ん中で飢えて死んだのだ。韓国に住む約3万5000人の脱北者たちは、いま怒りに震えている。