延命装置は「系統的な洗脳(思想教育)」
ところで、金正恩がアメリカを相手に保証を求める「体制」とは何なのか。ソースティン・ヴェブレン(1857~1929)が喝破したように、詰まるところ、体制とは当該社会で支配的な価値観のことである。支配的な「感情」と言い換えてもよい。
そうであれば、これは部外者が保証しきれる性質のものではない。支配者が不断に国民へ押し付け、国民が進んで感化されてこそ、その価値観(感情)が持続できる。
北朝鮮の場合、守るべき体制は社会主義でも一党独裁でもない。父子権力世襲の独裁体制、つまりは封建王朝さながらの時代錯誤な身分制度である。この価値観の延命装置は、金日成一族の神格化を中核とする系統的な洗脳(思想教育)である。体制が生き残るには、「非核化」はできても、「非神格化」はできない。
挫折した金正恩の神格化作業
ところが、この体制保証の「本丸」の入り口で、金正恩政権は大きく躓く。核ミサイルを作っては捨てる「離れ業」を演じられるほど、金正恩政権は盤石のはずだ。だが、執権8年目になる現在でも、金正恩の神格化作業は足踏みする。
そこには、乗り越えられない絶壁がある。金正恩の生母にまつわる「不都合な真実」がそれだ。言い換えれば、北朝鮮の体制保証の「アキレス腱」である。
本稿では、この神格化作業の挫折を点検する。「不都合な真実」の正体を前もって示せば、次の5点である。
1実母の高英姫が在日朝鮮人という「下層身分」に属すること
2「喜び組」の踊り子だったこと
3金正日の「正妻」ではなかったこと
4高英姫の父親が旧日本軍の協力者だったこと
5高英姫の実妹がアメリカに亡命した「脱北者」であること――。