「日本に助けてもらいたい」
インタビューに答えるライダイハンのトラン・ダイ・ナットさん=ロンドンのウエストミンスター(岡部伸撮影)
多くのライダイハンたちは50歳を迎える。しかし、ベトナムでは偏見と差別で職に就けない。1年でも韓国で働き、生活の糧を得られないか。ナットさんが在ベトナム韓国領事に、「生活苦のライダイハン10人でも韓国で働かせてほしい」と申し出たが、韓国領事は「教育を受けていない人に労働ビザは出せない。出せるのは観光ビザ」と断られた。観光ビザで渡韓しても働けない。働けば不法就労となる。ナットさんたちは途方に暮れた。
「ベトナム戦争で北ベトナムの兵士と市民を虐殺し、南ベトナムの女性を強姦した韓国は、アジアの竜と呼ばれるほど経済成長したが、高いモラルや倫理を持ち得た国か疑問に思う。ただ、われわれのような混血児がいることを認めてもらいたい」
ナットさんたちが韓国政府に求めるのは、謝罪でも補償でもない。認知だ。公に知ってもらいたい。自分たちの話を伝えてほしいと願っている。ただ、韓国との経済関係を重視してライダイハンの訴えを拒絶するベトナム政府の姿勢にも問題がある。
「エンターテインメントなどソフトパワーによる発信で、過去を封印する韓国をベトナム政府は追及しない。経済支援する韓国に配慮して、われわれの訴えに耳を傾けず、両政府は『過去にこだわらない』と同意した。慰安婦問題で日本を攻撃しながら、自らの罪を封印して反省も謝罪も調査も拒否する韓国政府の姿勢は矛盾に満ちているが、ベトナム政府も同調してわれわれを見捨てる。人間の尊厳を回復できるように日本に助けてもらいたい」
祖国ベトナムと韓国に絶望するナットさんの日本への眼差しは、悲痛で真剣だった。