求めているのは「謝罪でも賠償でもなく、韓国政府が悲惨な性暴力を起こした事実を認めることだ」
ベトナム戦争における韓国軍によるベトナム人女性に対する性暴力に関して、英国の民間団体を中心に韓国政府の加害者責任を追及する動きが急ピッチで進んでいる。
韓国が慰安婦問題で国連などに人権問題と訴え、国際社会を巻き込んだように、国連人権理事会(UNHRC)の独自調査を通じて国際的な性暴力問題となりつつあるのだ。
1964年から73年までベトナム戦争に出兵した約32万人の韓国軍兵士たちが、12歳の少女を含む数千人のベトナム人女性を強姦し、5,000人から30,000人の混血児が生まれた。ベトナム語で「ライ」は混血、「ダイハン」(大韓)は韓国の蔑称の意味であることから「ライダイハン」と呼ばれたが、韓国政府は約40年間、その存在を認めず、公式謝罪も賠償も行っていない。
かつてグルカ兵(ネパールの山岳民族出身の兵士)の待遇改善運動に取り組んだ英国人たちが2017年9月、「国際的人権問題」として韓国政府に「徹底調査と謝罪」を求める民間団体「ライダイハンのための正義」を設立。その経緯は月刊『Hanada』2017年12月号で、「英国で告発された韓国兵ベトナムでの強姦事件、慰安婦問題」として詳しく報じた。
その後、「ライダイハンのための正義」は約1年間の準備期間を経て、今年1月から本格的に活動を始めた。
EU離脱を巡る離脱協定案が大差で否決され、メイ前首相が歴史的敗北を喫した今年1月16日、ロンドンの中枢、ウェストミンスター地区にある英議会に、クルド民族少数派ヤジディ教徒で、「イスラム国」(IS)の性暴力を告発して、2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏らを招いて盛大なレセプションを開催した。
議会が採決する約3時間前に、議会内のホール「ストレンジャー・ダイニングルーム」にムラド氏やライダイハンのトラン・ダイ・ナットさんと母親、トラン・ティ・ンガイさん、保守党の重鎮で英政府の性暴力防止イニシアチブ(PSVI)を設立したウィリアム・ヘイグ元英外相、メイ首相の紛争地における性暴力防止特別代表、タリク・アマド氏(当時)らが集まった。
「ライダイハンのための正義」の「国際大使」を務めるジャック・ストロー元外相は、ジュネーブにある国連人権理事会にベトナム戦争における性暴力として徹底調査するよう申し立てたことを明らかにした。
「韓国人兵士の犠牲になったライダイハンの彼らが求めているのは謝罪でも賠償でもなく、韓国政府が悲惨な性暴力を起こした事実を認めることだ」と語り、そのうえで、「韓国政府に韓国軍が犯した罪を認め、国連の独立調査を受け入れる姿勢へと変わることを願っている」と、無視を続ける韓国政府に対する国連人権難民高等弁務官事務所(UNHCR)の独立調査が進展することに期待を示した。
英政府を代表してタリク・アマド氏は、「戦場における性暴力防止は英国の外交政策。ライダイハンを含むあらゆる性暴力に取り組む」と決意を表明した。
また、ムラド氏は「認識と正義を求める性暴力被害者であるベトナム人の現状を多くの人に知ってもらえた。長い間、母子たちはベトナム社会の陰に追いやられていた。世界中のすべての性暴力被害者のために立ち上がることを誇りに思う。韓国は過去に行った戦争犯罪を認めて、正義を示すべきだ」と述べた。
ISに性奴隷とされた経験をカミングアウトしてノーベル平和賞を受賞したムラド氏が支援したことで、ライダイハン問題は欧州で国際的な性暴力事件として認知されたと言っていいだろう。
建立された「ライダイハン母子像」を前に彫刻家、レベッカ・ホーキンスさん(左)とジャック・ストロー元英外相=ロンドンのセントジェームズスクエアガーデン(「ライダイハンの正義」提供)
野外展示され、一般公開された「ライダイハン母子像」=ロンドンのセントジェームズスクエアガーデン(「ライダイハンの正義」提供)