イギリスで国際人権問題化した韓国の戦争犯罪ライダイハン|産経新聞論説委員・前ロンドン支局長 岡部伸

イギリスで国際人権問題化した韓国の戦争犯罪ライダイハン|産経新聞論説委員・前ロンドン支局長 岡部伸

1964年から73年までベトナム戦争に出兵した約32万人の韓国軍兵士たちが、12歳の少女を含む数千人のベトナム人女性を強姦し、5,000人から30,000人の混血児が生まれた――韓国が、文在寅大統領が、今もひた隠す戦争犯罪に対して国際社会が遂に怒りの声を上げ始めた。日本では報じられない歴史戦の最前線を徹底レポート!


求めているのは「謝罪でも賠償でもなく、韓国政府が悲惨な性暴力を起こした事実を認めることだ」

ベトナム戦争における韓国軍によるベトナム人女性に対する性暴力に関して、英国の民間団体を中心に韓国政府の加害者責任を追及する動きが急ピッチで進んでいる。

韓国が慰安婦問題で国連などに人権問題と訴え、国際社会を巻き込んだように、国連人権理事会(UNHRC)の独自調査を通じて国際的な性暴力問題となりつつあるのだ。

1964年から73年までベトナム戦争に出兵した約32万人の韓国軍兵士たちが、12歳の少女を含む数千人のベトナム人女性を強姦し、5,000人から30,000人の混血児が生まれた。ベトナム語で「ライ」は混血、「ダイハン」(大韓)は韓国の蔑称の意味であることから「ライダイハン」と呼ばれたが、韓国政府は約40年間、その存在を認めず、公式謝罪も賠償も行っていない。

かつてグルカ兵(ネパールの山岳民族出身の兵士)の待遇改善運動に取り組んだ英国人たちが2017年9月、「国際的人権問題」として韓国政府に「徹底調査と謝罪」を求める民間団体「ライダイハンのための正義」を設立。その経緯は月刊『Hanada』2017年12月号で、「英国で告発された韓国兵ベトナムでの強姦事件、慰安婦問題」として詳しく報じた。

その後、「ライダイハンのための正義」は約1年間の準備期間を経て、今年1月から本格的に活動を始めた。

EU離脱を巡る離脱協定案が大差で否決され、メイ前首相が歴史的敗北を喫した今年1月16日、ロンドンの中枢、ウェストミンスター地区にある英議会に、クルド民族少数派ヤジディ教徒で、「イスラム国」(IS)の性暴力を告発して、2018年ノーベル平和賞を受賞したナディア・ムラド氏らを招いて盛大なレセプションを開催した。
 
議会が採決する約3時間前に、議会内のホール「ストレンジャー・ダイニングルーム」にムラド氏やライダイハンのトラン・ダイ・ナットさんと母親、トラン・ティ・ンガイさん、保守党の重鎮で英政府の性暴力防止イニシアチブ(PSVI)を設立したウィリアム・ヘイグ元英外相、メイ首相の紛争地における性暴力防止特別代表、タリク・アマド氏(当時)らが集まった。

「ライダイハンのための正義」の「国際大使」を務めるジャック・ストロー元外相は、ジュネーブにある国連人権理事会にベトナム戦争における性暴力として徹底調査するよう申し立てたことを明らかにした。

「韓国人兵士の犠牲になったライダイハンの彼らが求めているのは謝罪でも賠償でもなく、韓国政府が悲惨な性暴力を起こした事実を認めることだ」と語り、そのうえで、「韓国政府に韓国軍が犯した罪を認め、国連の独立調査を受け入れる姿勢へと変わることを願っている」と、無視を続ける韓国政府に対する国連人権難民高等弁務官事務所(UNHCR)の独立調査が進展することに期待を示した。

英政府を代表してタリク・アマド氏は、「戦場における性暴力防止は英国の外交政策。ライダイハンを含むあらゆる性暴力に取り組む」と決意を表明した。

また、ムラド氏は「認識と正義を求める性暴力被害者であるベトナム人の現状を多くの人に知ってもらえた。長い間、母子たちはベトナム社会の陰に追いやられていた。世界中のすべての性暴力被害者のために立ち上がることを誇りに思う。韓国は過去に行った戦争犯罪を認めて、正義を示すべきだ」と述べた。

ISに性奴隷とされた経験をカミングアウトしてノーベル平和賞を受賞したムラド氏が支援したことで、ライダイハン問題は欧州で国際的な性暴力事件として認知されたと言っていいだろう。

建立された「ライダイハン母子像」を前に彫刻家、レベッカ・ホーキンスさん(左)とジャック・ストロー元英外相=ロンドンのセントジェームズスクエアガーデン(「ライダイハンの正義」提供)

野外展示され、一般公開された「ライダイハン母子像」=ロンドンのセントジェームズスクエアガーデン(「ライダイハンの正義」提供)

アンジェリーナ・ジョリー氏も「いまこそ、行動を起こすべき」と

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女優のアンジェリーナ・ジョリー氏

さらに、英国人彫刻家、レベッカ・ホーキンスさんがベトナム戦争で残虐な性虐待を受けた女性たちをはじめ、世界中の紛争下において性暴力の被害者となった人々を哀悼する目的で高さ230センチ、重さ700キログラムのブロンズ製の「ライダイハン母子像」を製作。枝が人々の体を包み込んで抜け出せなくする「ライダイハン母子像」は、ベトナム原産の「絞め殺しの木」の根が母と子を締め付けている様子を表している。

彫刻を製作したホーキンスさんは、こう胸を張った。

「この像は、逆境に負けない母子の内面の逞しさを称賛する。重要な運動をより多くの人々に知ってもらいたい。被害女性や子供たちが受けてきた苦しみに終止符を打ち、正義と決着を与えることを願う。母子たちは、困難と苦境にありながら、勇気を持って自分たちのことを語り、正義を勝ち取ろうと運動を始めた。像が、この運動の一部となり、これらの勇敢で勇気ある女性たちと会うことは生涯にわたる名誉だ」

6月11日にはウェストミンスターのチャーチハウスで除幕式を行い、ムラド氏らが全世界に向けて発表した。

ヘイグ元外相は性暴力防止イニシアチブを立ち上げ、性暴力抑止に乗り出したが、南スーダンやミャンマー、シリア、イラクで性暴力が継続しており、「いまこそ、行動を起こすべき」(国連難民高等弁務官事務所特使を務める米女優、アンジェリーナ・ジョリーさん)との認識から、英政府は性暴力防止の専門家を紛争地に派遣して、性暴力犯罪の証拠を集めて司法に訴え、被害者に寄り添い、サポートする構えだ。

「国際大使」のストロー元外相は、早速英議会のオンラインメディア「ポリティックス・ホーム」に寄稿して、「世界の性暴力撲滅に主導的な役割を果たそうとしている英国は、過去の歴史的な性暴力を忘れてはならない」と述べ、置き去りにされてきたライダイハンも注視すべきだと訴えた。

ストロー元外相は、「日本に対して、従軍慰安婦について責任追及して謝罪させることに成功した韓国政府が、ライダイハンについては存在を認めず、被りして事実調査も行っていないのは大変残念だ」と、韓国政府の矛盾する対応に、繰り返し疑問を呈している。

韓国政府と戦い続ける

その後、7月31日に「ライダイハン母子像」はウェストミンスターにある小さな公園、セントジェームズスクエアガーデンに野外展示され、一般公開された。

周囲には、ロンドン図書館やシンクタンク、王立国際問題研究所(チャタムハウス)、さらにオックスフォード・アンド・ケンブリッジ・クラブや、退役海軍・陸軍軍人クラブなど格式高い会員制のジェントルマンズクラブ(紳士クラブ)が立ち並ぶ。高級住宅街の中心にある閑静なガーデンは、都心のオアシスだ。プライベートのガーデンだが、平日は午前10時から午後4時半まで一般に開放されている。

その公園の真ん中に、名誉革命で英国国王となり、権利の章典を発布して「君臨すれども統治せず」の大原則によって、立憲君主制の基礎を築いたウィリアム3世のブロンズ像がある。「ライダイハン母子像」がこの近くに建立されたのは、「ライダイハンのための正義」がウィリアム3世の功績にあやかって、議会制民主主義に基づいてライダイハン問題を解決しようという意図を表している。

裏を返せば、ベトナムで女性の人権を踏みにじりながら、40年間にわたって反省も公式謝罪も、賠償どころか調査さえも避けてきた韓国政府の姿勢が、英国の民主主義や人権、法の支配の価値観から、大きくかけ離れていることを示している。

もちろん被害者のライダイハンにとっても、ロンドンの中心地での「母子像」建立は大きな意味がある。ライダイハンのトラン・ダイ・ナットさんは、「我々ライダイハンと、韓国軍兵士により蹂躙された母たちにとって歴史的な日となった。韓国政府からの認知と正義を勝ち取るため、戦い続ける」と決意を新たにした。

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ボリス・ジョンソン 英首相

「文在寅大統領、答えて下さい」―送った公開書簡

こうした動きを受けて、トラン・ダイ・ナットさんら3人のライダイハンは5月28日付で、在英国韓国大使館を通じて韓国の文在寅大統領に公開書簡を送った。

ナットさんは、書簡のなかでこう訴えている。

「韓国政府は、韓国軍兵士がベトナム女性に性暴力を行っていたことを認め、国連人権理事会の独立調査に協力せよ。韓国政府が我々の存在を認めないため、ライダイハン50人は、韓国軍兵士のDNAデータベースと照合するためにDNAサンプルを提供する。DNA型鑑定で父子関係が確定すれば、性暴力の犠牲になり、現在生存している約800人の女性とその子供たちに公式謝罪してほしい」

しかし韓国外務省からの回答は、「ベトナムとの友好関係が発展するよう努力していく」とだけだった。

このため、ナットさんらは6月10日、ウェストミンスターの通称ナンバー10といわれる英首相官邸を訪問し、メイ前首相宛に書簡を手渡した。ナットさんらは、英国政府に国連人権理事会主導で進める独立調査を公式に支持するよう求めたのだ。

この要請を受けてジョンソン新政権は、11月にロンドンで開く性暴力防止イニシアチブを「ライダイハンのための正義」と共催することを決めた。英政府や議員らの間で、韓国の戦争犯罪であるライダイハン問題を本格追及する動きが広がっていることは間違いない。

こうした韓国軍の蛮行を追及する草の根運動を英メディアも報じ始めた。2017年9月11日、インディペンデント紙(電子版)が「戦時下で強姦されたベトナム女性たちは、生涯受ける苦痛と損害に対する裁きを求めている」との記事を掲載した。

今年一月に英議会で開催したレセプションを取材したガーディアン紙は1月19日付で、「ベトナム戦争中、韓国兵に強姦された女性たちはまだ謝罪を待っている」との見出しで、「韓国軍が女性に性暴力を行い、その結果として生まれた数千人の子供の存在を韓国政府が認めることが求められる」と指摘したうえで、「韓国政府は、韓国軍が数千人の女性や女児を暴行した。被害者のなかには12歳の少女までいた。

韓国はベトナムにおける戦争犯罪を一切認めていない。にもかかわらず、日本には第二次大戦で韓国からの従軍慰安婦に対して、謝罪を要求し続けている」と自分に甘く、他人に厳しい韓国のダブルスタンダードの対応を批判し、ストロー元外相が韓国に性暴力被害を受けた家族に謝罪するように圧力をかけていると報じた。

また、ロイター通信も1月16日付で、「ヤジディ教徒(ナディア・ムラド氏)の生存者がベトナム戦争でレイプされた女性の正義を要求した」と題して、英議会のレセプションでムラド氏が、「性暴力を犯した加害者は、犯した罪に対して正義のため、より多くのことをすべきだ」と述べ、韓国政府に性暴力を認めることを求めたと報じた。

こうしたことを踏まえて、ロイター通信は、「ここ数年、韓国政府は慰安婦問題で日本に謝罪を求め続け、すでに謝罪して決着済みとする日本との間で論争となり、関係が悪化する要因となっている。しかし、ベトナムと韓国の間ではそのような合意はない」と伝え、日本に謝罪を求めながら被りを続ける韓国政府の国家としての対応に疑問符をつけた。

BBC放送は、ベトナム語放送と韓国語放送でレセプションの様子をベトナムと韓国向けに伝えた。デイリーテレグラフ紙は、「ライダイハン母子像」を建立後の8月5日付で、ストロー元外相の「多くの困難にもかかわらず、ライダイハン運動は進歩しており、紛争地の性暴力撲滅に向けて、さらに正義を強化し、責任を果たしていかなければならない」との寄稿を掲載した。

英議会内のホールで開催されたレセプションでライダイハンのトラン・ダイ・ナットさん、ウィリアム・ヘイグ元外相、ジャック・ストロー元外相、ナットさんの母親、トラン・ティ・ンガイさん、人権活動家のナディア・ムラド氏(右から)

絶望のなか30年間出し続けた手紙

最後に、ライダイハンと呼ばれる混血児のトラン・ダイ・ナットさんが筆者に語った肉声を伝えたい。

ナットさんが自らのアイデンティティに疑問を持ったのは五歳の時。ベトナム戦争が終結した1975年4月だった。旧北ベトナム、現在のベトナム社会主義共和国が南ベトナムの首都だったサイゴン(現ホーチミン)を陥落させ統一すると、共産主義政権の下で状況が一変した。

「北の共産政権は、南の体制を支持して戦った米国とその同盟国を敵とみなし、彼らに関係するベトナム人を・反逆者・として弾圧した。韓国人に強姦された母親は敵の仲間とされ、あらゆる財産は没収され、母親と祖父、叔父は投獄された。祖父は収監中に鞭で打たれ、その傷が原因で、出獄から1週間後に死亡した」
 
ナットさんも敵の子ということで「犬」と呼ばれ、学校でいじめられた。
  
「私は母親と暮らせたから恵まれていた。敵の・残滓・とみなされた多くのライダイハンは、母親と引き離された。今後20年間、国家に反乱を起こさせない狙いからだ。母子がともに暮らしたければ、人里離れたジャングルに隔離された。未開のジャングルを選択した母子の多くはさまざまな病気にかかり、命を落とした」

絶望のなかで、ナットさんは歯を食いしばって学校に通い、読み書きを覚えた。しかし、ライダイハンのほとんどが学校に行けず、教育を受けられなかった。

「非識字者のため職に就けず、人間として最低限の社会生活も送れない。悪い時代に悪い場所に生まれてきたと諦めるしかなかった」

ナットさんの母親、トラン・ティ・ンガイさんが真実を明かしたのは、ナットさんが18歳の時だった。跪いて、「韓国軍兵士にレイプされた」と告白した。1人の兵士のみならず、さらに2人の将校からも数度にわたって強姦された。2人の姉妹がいて、それぞれ父親が異なる混血児。3人ともライダイハンだ。

ナットさんが韓国政府に性暴力被害の実態調査依頼を始めたのは、1989年。盧泰愚氏から文在寅氏まで歴代7人の大統領、駐ベトナム韓国大使、韓国の閣僚に手紙を出し続けたが、返信はなかった。

「彼らは、『大統領に要求を届ける。大統領からの返事を待ってほしい』と繰り返し、30年間なしのつぶてだ」

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「日本に助けてもらいたい」

インタビューに答えるライダイハンのトラン・ダイ・ナットさん=ロンドンのウエストミンスター(岡部伸撮影)

多くのライダイハンたちは50歳を迎える。しかし、ベトナムでは偏見と差別で職に就けない。1年でも韓国で働き、生活の糧を得られないか。ナットさんが在ベトナム韓国領事に、「生活苦のライダイハン10人でも韓国で働かせてほしい」と申し出たが、韓国領事は「教育を受けていない人に労働ビザは出せない。出せるのは観光ビザ」と断られた。観光ビザで渡韓しても働けない。働けば不法就労となる。ナットさんたちは途方に暮れた。

「ベトナム戦争で北ベトナムの兵士と市民を虐殺し、南ベトナムの女性を強姦した韓国は、アジアの竜と呼ばれるほど経済成長したが、高いモラルや倫理を持ち得た国か疑問に思う。ただ、われわれのような混血児がいることを認めてもらいたい」
 
ナットさんたちが韓国政府に求めるのは、謝罪でも補償でもない。認知だ。公に知ってもらいたい。自分たちの話を伝えてほしいと願っている。ただ、韓国との経済関係を重視してライダイハンの訴えを拒絶するベトナム政府の姿勢にも問題がある。

「エンターテインメントなどソフトパワーによる発信で、過去を封印する韓国をベトナム政府は追及しない。経済支援する韓国に配慮して、われわれの訴えに耳を傾けず、両政府は『過去にこだわらない』と同意した。慰安婦問題で日本を攻撃しながら、自らの罪を封印して反省も謝罪も調査も拒否する韓国政府の姿勢は矛盾に満ちているが、ベトナム政府も同調してわれわれを見捨てる。人間の尊厳を回復できるように日本に助けてもらいたい」
 
祖国ベトナムと韓国に絶望するナットさんの日本への眼差しは、悲痛で真剣だった。

著者略歴

岡部伸

1959年生まれ。81年、立教大学社会学部を卒業後、産経新聞社に入社。社会部記者として警視庁、国税庁などを担当後、米デューク大学、コロンビア大学東アジア研究所に留学。外信部を経て、モスクワ支局長、編集局編集委員。2015年12月から19年4月までロンドン支局長を務める。現在、同社論説委員。著書に『消えたヤルタ密約緊急電』(新潮選書・第22回山本七平賞)、『「諜報の神様」と呼ばれた男』(PHP研究所)、『イギリスの失敗』(PHP新書)など。



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