尹錫悦は今年の8·15光復節の祝辞で、「共産主義者たちが韓国社会で横行している」とまで主張した。 ところが先述したように、尹錫悦は、保守陣営が韓国共産主義勢力の首魁と名指しする文在寅に対しては、何の捜査もしていない。 また、横行しているという共産主義者を探し出すための特別捜査チームを作るよう指示もしていない。 すなわち、尹錫悦の共産主義者関連発言は、ただ保守老人層の支持をつかむためのリップサービスに過ぎない。
過去に尹錫悦は、朴槿恵国政壟断捜査関連の特検第4チーム長として朴槿恵と財閥間の賄賂罪を捜査した。 しかし、実際、朴槿恵が財閥の金を直接受け取った事実は一切なかった。 文化発展とスポーツ発展のために作られたミル財団とK財団の出捐金を財閥が出資しただけだった。朴槿恵は財閥トップに出捐金を要求したこともなく、財団の金を使ったこともない。 それにもかかわらず、尹錫悦はこれを無理やり賄賂罪に仕立て上げ、懲役30年の刑を求刑したのだ。 ちなみに、朴槿恵に直接30年刑を求刑した特検第4チームのナンバー2の韓東勲は今、法務部長官になっている。
現在、尹錫悦を支えている保守層の絶対多数は、過去の特検の捏造捜査によって朴槿恵弾劾が起きたと主張した人々だ。 すなわち、この問題と関連して、今後朴槿恵の発言と行動次第で尹錫悦政権は一夜にして崩壊する可能性もある。 そのため、尹錫悦は就任直前に朴槿恵を訪れ、「面目なく申し訳ない。 名誉回復にすべての助けを尽くす」とし、自身が事実上無理な捜査をしたことを自白している。
朴槿恵は最近、中央日報とのインタビューで、収賄罪など過去の自分に対する特検捜査は不当だったという立場を再度示した。ただ「左派政権が延長されることを防いで安心した」とし、尹錫悦政権自体は認めた。 その一方で、自分に懲役30年の刑を求刑した韓東勳を法務部長官に起用したことについては、当然のことながら不満を吐露した。
台湾問題を利用
尹錫悦は、自分の不透明な理念的アイデンティティ、朴槿恵に対しての無理な捏造捜査によって、いつでも保守層から捨てられるという不安感を抱いている。そこで出したカードが、まさに無理な形の韓米日同盟だ。
尹錫悦は韓米日同盟のために李明博、朴槿恵両大統領が全くとらなかった中国とロシアを直接攻撃する方式を選んでいる。
尹錫悦は昨年4月19日、ロイター通信とのインタビューで、「我々は国際社会とともに力による現状変更に絶対反対する」とし、「単純に中国と台湾だけの問題ではなく、南北間の問題のように域内を越えて全世界的な問題だ」と述べ、突如、台湾問題を持ち出し、中国を挑発した。中国の立場では、台湾問題を韓国と北朝鮮の南北問題のように世界的な問題にすることは、絶対受け入れられない。そんなことは尹錫悦も当然承知の上だろう。案の定、中国の秦剛外交部長は2日後の21日に、「台湾問題で火遊びをする者は必ず自ら燃えて死ぬ」と強く反発した。
台湾問題で破格の発言をした尹錫悦だが、だからといって台湾と緊密に協力をしているわけではない。むしろ台湾側は、事前にいかなる緻密な計画と協議もなく、第3国である韓国が台湾問題を突如前面に押し出し、中国への挑発を強行したことを不便に思っていると見る必要がある。尹錫悦は国内の保守層に韓米日同盟を強調するため、台湾問題を利用しているだけだ。
尹錫悦は、これまで中国よりも韓国と友好的だったロシアに対しても挑発を行なっている。一例をあげると、ウクライナを助ける名目で兵器支援まで示唆した。 結果、ロシアは孤立した北朝鮮の金正恩第1書記を呼び込み、事実上、韓国に対する外交安保的報復に乗り出した。
もちろん、韓米日同盟は韓国保守陣営の基本原則である。しかし、韓米日同盟をするからといって、不必要に中国、ロシアと衝突する理由はない。特に韓国は、北朝鮮の非核化のためには、中国とロシアの協力を求めなければならない立場にある。にもかかわらず、むしろ中国、ロシア、北朝鮮をさらに団結させている状況について、尹錫悦は何の問題意識も感じていない。 尹錫悦は、自分に対する保守層の支持をつかむために北東アジアの秩序を崩しているのだ。