それでもBGF会長のデュカキス元知事は安倍元首相への警戒が強かった。同年12月にBGFで「平和と世界の安全のための指導者賞」の第一回受賞者候補に安倍元首相の名前があがった際、「政治的立場が異なる」と賛成を留保。
そこでBGFの共同創設者のトゥアン氏がベトナム人の立場からアジアの現状を説明した。
「安倍元首相が太平洋、とりわけ尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海の平和と安全の維持に重要な役割を果たし、日本はアジアの平和に多大な貢献をしている」
その事実を知りデュカキス元知事の安倍元首相への評価は変わった。
南沙諸島での人工島建設や西沙諸島での地対空ミサイル配備など目覚ましい経済発展に伴い軍事力を拡大させた中国の強硬な海洋進出に伴い、東シナ海と南シナ海で緊張が高まったことも大きかった。
中国が世界秩序を乱す覇権的な行動を繰り返すにつれ、対抗する地球的規模の指導者として安倍元首相への敬意が高まったという。
国際協調主義に基づく「積極的平和主義」による外交、安保政策の評価が高まり、安倍元首相が提唱する外交構想「自由で開かれたインド太平洋」構想がトランプ、バイデン両政権の共鳴を呼び、米国の主要政策として採用された。主権国家が他国の政策を採用するのは極めて異例である。これ以降、この構想が世界各国に広がった。
こうして米国では安倍元首相は「日本の歴史上、最も偉大な首相と認識される」(トランプ前大統領)との評価が固まった。
「安倍晋三平和安全保障イニシアチブ」を創設
昨年7月8日、安倍元首相が奈良で非業の死を遂げると、トゥアン氏は、デュカキス元知事らと協議してBGFが「〝親しい友人〟安倍氏の遺産である世界平和と安全への貢献を称え、その使命を続けよう」と「安倍晋三平和安全保障イニシアチブ」を創設、これを軸に世界中のリーダーや専門家との連携を促進して、安倍元首相の遺産を引き継いでいくことを決めたのだった。
昨年11月には、「世界における日本の平和と安全保障」を題材にオンライン国際会議を開催し、世界に広がった「自由で開かれたインド太平洋」構想など外交・安全保障の功績を再確認したのに続いて、4月5日、安倍元首相をグローバルな啓蒙リーダーとして称え、「人工知能(AI)、デジタル、データが重要な役割を果たすグローバル啓蒙時代の日本経済を偉大に」をテーマに2回目の国際会議を開催した。
経済をテーマに選んだ理由をトゥアン氏はこう説明した。
「台頭する中国を抑えるには、米国、日本、インド、欧州など西側民主主義国家が強さを維持して対抗する必要がある。そのためには日本の経済的成功が極めて重要。デジタルやデータが中心となる時代、世界経済における日本の優位性を支えるには、安倍元首相の遺志を継ぎ、アベノミクスを維持・継続することが不可欠だと考えたからだ」
米国にとって現状変更を試みる中国を抑止するには日本経済の再生が欠かせない。とりわけAIなどの次世代技術や5G(第五世代移動通信システム)などのデジタル分野で中国が世界をリードし、情報通信を通じて浸透することへの警戒感が強いことが背景にある。