「安倍元首相が提案したDEFTを支持する」
安倍元首相が19年にダボス会議で提唱した「信頼性のある自由なデータ流通、DEFT(Data Free Flow with Trust)」に対してこう賛意を表したのが、オバマ政権時代の2013年6月、商務長官代理を務めたキャメロン・ケリー氏だ。
DEFTは、世界経済の発展にかかせない喫緊の課題となっている。ケリー氏は、欧州連合(EU)に続き、米国でも情報保護法案が策定されつつあり、AIについて国際基準を策定する必要があるとも指摘した。このため「DEFTはより具体的な成果をもたらすよう引き継がれるべきだ」と指摘する。
DEFTは、国際的な法的枠組み(国際ルール)の構築が焦眉の急となっている。TPPに続き、データ流通でも安倍元首相の遺志を継いで自由と民主主義、法の支配の価値を守るDEFTの実現で日本は国際秩序づくりを主導すべきだ。
国際ルール作りには世界各国との協力が欠かせない。安倍元首相の突然の訃報を受けて、いち早く全土で半旗を掲揚し、弔意を示したインドでは、安倍元首相は「インド太平洋とクアッドの父」と呼ばれ、その功績が絶賛されている。「インド太平洋」という戦略概念を提唱し、インドの地政学的可能性を世界に広めたためだ。
IT大国インドで政府がデジタル・トランスフォーメーション(DX)を公共分野で実現する公共デジタルインフラ「インディア・スタック」を完成させた「iSpirit」のグローバル・アンバサダー、サンジェイ・アナンダラム氏は、データ分野でも日印がパートナーになれると強調。インド全域で12億人の全国民にID登録させたという。
「インドは健康・教育、クレジット決済、ドローン、電子商取引など多様性に富んだデジタル公共財を開発し、導入するリーダーとして注目され、世界中に低コストかつ迅速に提供している。デジタル公共財のほとんどはアフリカやアジアの発展途上国に提供されている。日本ともデータプライバシーのみならず、データのエンパワーメントと保護に取り組む機会が十分にある。日本では高齢化や人口減少が進んでいるが、インドは世界最大の若年人口を抱え、世界のAI開発者の12%を有して可能性に満ちている。日本のAIやセキュリティに関する専門的な技術とインドが持つ可能性を組み合わせば、素晴らしい協力ができ、大きな成果を得られる」
アベノミクスの完遂を目指せ
オンライン国際会議ではアベノミクスも議題にのぼった。
安倍元首相が昨年7月、奈良で凶弾に倒れると、英BBC放送は次のように報じた。
「8日に暗殺された安倍晋三元首相は、日本経済の転換を目指していた。20年晩夏に退任するまで、日本の首相を最も長く務めた。在任中に最も注目された政策は、おそらく『アベノミクス』だろう。一連の景気刺激策と大規模な改革は、世界3位の経済大国を確かに活性化させた。(中略)政治的なブランディングとしては、アベノミクスは確かに成功した。ただ、安倍氏が掲げた主要な経済目標は達成できなかった」
こうした言説に対して「目標のデフレ脱却を達成できておらず、いまだ道半ばだ」と反論したのは、経済政策のブレーンとして内閣官房参与を務めた本田悦朗氏だ。「率直に言ってアベノミクスの成功は苦難の道であり、今後も様々な点を改善していかねばならない」と語気を強めた。
「消費と投資の活性化だけでなく、イールドカーブコントロール(YCC)による少子化の解消など、マクロ経済の活性化を続けていく必要がある。将来的には、2%の物価安定目標や完全雇用とともに、新しい雇用や前向きな転職が積極的に行われ、国民がお金を貯めるのではなく消費する社会の実現を目指す。このためには、マイルドなインフレによって経済が成長し続けることが必要不可欠だ」
「アベノミクは経済学者やマスメディアに批判されているが、いくつかのハードルを超えることでの使命を果たせると確信している」
アベノミクスの貫徹を訴えた。