台湾有事はこうして起こる|山崎文明

台湾有事はこうして起こる|山崎文明

「中国の台湾侵攻を阻止するには、台湾海峡に機雷原を敷設することである」―アメリカの最新研究が今話題を呼んでいる。一方で、中国による機雷敷設によって台湾有事が勃発するシナリオも現実味を帯びる。もし台湾海峡が封鎖されれば日本はどうなるのか。報じられない「台湾有事の盲点」を緊急分析する。


米軍の機雷敷設作戦に頼るところが大きい台湾だが、台湾軍も機雷戦の準備に入っている。2020年12月に台湾は、機雷戦に備え、国産の高速機雷敷設艇を完成させている。高速機雷敷設艇は、台湾政府がいうところの世界最先端の自動機雷敷設システムを備えており、荒天の中でも迅速に機雷が敷設できるとしている。2022年1月には、海軍192艦隊機雷施設大隊に第1、第2機雷敷設艇中隊を発足させている。

だが、これらの任務は主に台湾の港を防衛するためのもので、想定される中国の機雷敷設作戦には、台湾の機雷敷設能力も掃海能力も十分ではない。こうした台湾の機雷戦に対する対応に対して、中国の定期刊行物『Hai Lin, “In 2010 Taiwan Will Be Surrounded with a Sea Mine Battle Array,” 』に記載されている評価では「もし台湾の対機雷戦兵力が戦いの中に送り込まれたならば、身ぐるみ剥がされて、みすぼらしさを曝け出す実例となるだろう」と表現されている。

機能しない国際法

機雷には、発火方式や設置方式、走行機能の組み合わせで様々な種類がある。発火方式では触発機雷(contact mine)、感応機雷(influence mine)、官制機雷(command-detonated mine)などがある。設置方式では係維機雷(moored mine)、沈底機雷(bottom mine)、浮遊機雷(floating mine)、吸着機雷(limpet mine)などがある。自走機能では感知すると目標を追尾するホーミング機雷や目標深度まで上昇する上昇機雷などがある。

日露戦争(1904年〜1905年)の終結後の1907年に成立した機雷戦に関する唯一の国際法である「自動即発海底水雷の敷設に関する条約」、いわゆるハーグ条約第8条があるが、この条約では、係維(アンカーケーブル)から切り離された機雷缶(機雷本体)は、直ちに無害化されなければならない。浮遊機雷については「監理」を離れた後、1時間以内に無害とならないものは使用を禁止としている。

ハーグ条約第8条が成立した頃の機雷は、触発機雷が主流であり、触発機雷を前提にした規制となっているが、現在、主流となっている音響、水圧、磁気に反応する複数のセンサーを備えた非接触型の機雷であり、まして自走式機雷に対する国際法は存在しない。しかも、1907年のハーグ条約の成立後、第2次世界大戦をはじめとして様々な国際紛争が勃発しているが、ハーグ条約加盟調印国が、ことごとくこの条約を無視しており、100年以上が経った今も改正は行われていない。機雷の使用制限を避けようとする加盟各国は、それだけ機雷の威力を十分に認識しているということだ。

厄介な中国の機雷―日本の海上交通を封鎖

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