『豪州と中国戦争前夜』|崔大集

『豪州と中国戦争前夜』|崔大集

韓国語版『「目に見えぬ侵略」「見えない手」副読本』(『豪州と中国戦争前夜』)が遂に発刊!日本と同様、中国による目に見えぬ侵略に対して警戒感が薄い韓国国民。その中で大韓医師協会の崔大集(チェ・デジプ)前会長が本書を激賞!その理由とは。


クライブ・ハミルトンが告発する中共の浸透・転覆工作は文字通り総体的である。豪州の政治家やジャーナリストは中国共産党の後援金と広告料、旅行資金支援、そして引退後のポスト提供などを活用した「グルーミング」に引き摺られ、中国人よりも中国の利害関係のために政治活動やメディア活動を繰り広げた。中国人留学生に依存した豪州の大学らは、学内における中国への批判的議論そのものを遮り、結局は香港民主化を叫ぶ自国民、在学生らを懲罰することはもちろん、豪州を狙う中国兵器の開発に協力する事態にまで陥った。さらに、豪州の各港や農地は中国企業家らに順次買収され、中国の軍事戦略拠点、食糧生産基地に変貌していった。

ところが、これは豪州だけの話ではなかった。同じ様相は北米と欧州各国でも現れた。実際、中国に対する各国の過剰な低姿勢外交こそ、中国共産党の浸透・転覆工作の現実を助長しているのだ。ジョン・マッカラム駐中国カナダ大使は、カナダの外交官でありながらカナダを代弁せず、むしろカナダ政府に対し中国の立場を理解するよう呼びかけた。中国の人権運動家、劉暁波にノーベル賞を授与したノルウェーでは、ボルゲ・ブレンデ外務部長官が事実上反省、謝罪する内容の声明を中国で発表した。ダライ・ラマと面談した英デーヴィッド・キャメロン首相も、今後はダライ・ラマに会わないとの約束を中国当局と交わし、中国訪問を実現させた。

国際連合(UN)、世界貿易機関(WTO)などの国際機関も元来、世界各国の利害関係を代弁すべき組織であるにもかかわらず、中国共産党の利害関係を代弁する組織に変貌した。コロナウィルスの発生初期に、あたかも中国のパペット(操り人形)のように踊らされ、事態をより深刻化させた世界保健機構(WHO)の不可思議な振る舞いを記憶に新しい。新疆ウイグル自治区でジェノサイドを行なう中国が、国連人権理事会(UNHRC)加盟国に堂々と進出したナンセンスは、「中国特色国際機構」の奇怪な現実を克明に示している。

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日本の危うい「ヘイトスピーチ解消法」

米中貿易葛藤の象徴であるファーウェイ問題も取り上げざるを得ない。ファーウェイは技術を盗み成長した企業と言っても過言ではないが、真に恐ろしい点は世界最大の通信企業の一つであるこの会社が、中国共産党に各種顧客情報を「バックドア」(裏口)を通じて回しているという疑惑さえあるという点である。

創業主(任正非)の財力と企業の不透明な所有構造、財務構造は競争企業と世界の人々の恐怖心をさらに増幅させている。ファーウェイの孟晩舟副会長は、米国の対イラン制裁問題と関連した詐欺問題によってカナダで逮捕され2年余り自宅軟禁生活を送ったが、呆れることに中国が一般のカナダ国民を拘束する人質外交を繰り広げ、ファーウェイ副会長は釈放された。テロ組織がやりそうなことを何ら躊躇なくやるのが中国共産党であり、中国企業はそうした中国共産党の傘下組織に過ぎないという点をファーウェイは如実に示している。

中国共産党のこれら全ての横暴の背景には、「一帯一路」や「中国の夢の実現」がある。中国は全世界の「人、物、資金、情報」が往来する全ての要素を掌握しようと企み、これらを通じて唐や清朝時代のような中華帝国の栄光を再現しようとしている。

実は「中華帝国の栄光」という「叙事詩(narrative)」に対する信念と中国共産党の影響力工作は無関係ではない。

そうして中国が作る新たな国際秩序によって、第二次世界大戦以後、米国が主導してきた国際秩序を塗り替えながら、自分たちの統治の正当性を永久化しようとするのが中国共産党の真の狙いである。そのことをクライブ・ハミルトンは『目に見えぬ侵略』と『見えない手』を通じて告発したのだ。

『豪州と中国戦争前夜』は、基本的に日本の読者を一次読者として書かれた解説書である。しかし、韓国の読者もこの本を十分に興味深く読むことが出来ると考える。なぜなら韓国と日本、豪州の三国は共にインド・太平洋地域で米国の同盟国として対中国外交、安全保障問題の利害関係をほぼ共有しており、また何よりも中国共産党が崩そうとする自由・人権・法治の民主的価値観を全面的に共有している国家であるからだ。

ただしクライブ・ハミルトンによると、中国共産党が特に卑劣な点は多元的・開放的社会の弱点を悪用することにあると言う。その手法の一つが「中国共産党」に対する批判と一般の「中国人」に対する批判を等値させ、自由民主主義を抹殺しようとする中国共産党の試みへの批判を一括して「嫌悪」に分類し、無力化させてしまうことである。

豪州も2017年までは中国に対する批判が事実上不可能で、クライブ・ハミルトンの『目に見えぬ侵略』も出版社が刊行を放棄するなど、紆余曲折を経なければならなかった。このような現実は豪州のみならず日本も同じである。

日本もいわゆる「ヘイトスピーチ解消法」などが中国共産党批判に対する一つの足枷として作用する。日本世論を概ね主導する大メディアの朝日新聞や毎日新聞は左派的性向であるにもかかわらず、中国の人権問題に対する批判は多く見られない。日本ではむしろ『月刊Hanada』など保守派媒体が新疆ウイグル自治区、チベットなどの少数民族の人権問題や台湾独立問題に関して議論を主導している状況が見てとれる。

「炭素」よりも「中共」を拒絶せよ

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