中国共産党による豪州および世界に対する工作活動を明らかにし、この問題で世界最高の理論家として注目される学者が、豪州チャールズ・スタート大学(Charles Sturt University) 教授のクライブ・ハミルトンである。彼の関連著書『目に見えぬ侵略(Silent Invasion)』と『見えない手(Hidden Hand)』は、2021年上半期に韓国でも翻訳出版されベストセラーとなった。
しかし、膨大な分量と馴染みがない題材のため、本の売り上げ部数に比べ韓国内の知識層、そして市民社会での議論はそれほど活発化されなかった。日本でも似た様な現象が起きたのか、クライブ・ハミルトンの原著を新たに整理し紐解いた解説版が出版された。その本こそが『豪州と中国戦争前夜(豪州と中国の予定された戦争 )』(原題:『「目に見えぬ侵」「見えない手」副読本』)である。
国連の中国化
中国共産党の世界覇権問題は、2010年頃から国際社会で大きな話題となり、主に米中覇権闘争の文脈でこの問題を扱う書籍は既に国内外で多数出版されてきた。そして中国共産党の海外スパイ工作についての議論はこれまで無きにしも非ずであった。その中で特定の国家において中国共産党が、いかに浸透・転覆工作を行うかを包括的に扱う試みはほぼ無かったが、クライブ・ハミルトンの著作が大きな注目を集めた理由は、そのような試みが出版分野で初め行われたことにある。
彼の著作には中国の脅威論を軽視して、最終的に「マフィアの頭目ヴィトー・コルレオーネの前に立たされボーイスカウト」のようになってしまった豪州と北米、欧州の赤裸々な実像が盛り込まれた。
本書『豪州と中国戦争前夜』は、クライブ・ハミルトンが『目に見えぬ侵略』と『見えない手』で争点化した中国共産党の豪州および世界浸透・転覆工作を、計40種のテーマに分類し解説している。「大学を監視する中国人留学生たち」、「順に買収されている豪州の港」、「ブレーキのない国連(UN)の中国化」、「ダライ・ラマに会えば経済制裁を受け対中国輸出が減少する」、「メディアと記者の弱点を突く資金提供と接待旅行」、「豪州全土の電気が消える日」など……各タイトルだけでも既に侵略戦争に関する報告書を彷彿とさせる。
クライブ・ハミルトンは、原著では全て実名で批判したが、副読本ではそれらに加え実物の写真まで掲載している。したがって、原著よりも豪州や北米、欧州の状況が読者にはより実感出来るであろう。