今回のサンフランシスコ市での経緯を振り返ると、その手段は非常に「練られた」ものだったと実感しています。
民間団体が慰安婦像を建て、将来にわたるメンテナンス費用までを寄付するといって市議会議員にロビー活動をかけ、市議会が寄贈受け入れ決議をし、市長に認めさせる。この場合、自治体としては税金の持ち出しがないため、手続きを含む負担が非常に軽いのです。
リー前市長は私に宛てた書簡で、寄贈受け入れについて「地域の声に応える必要がある」と述べていましたが、税金を投入するとなれば、慰安婦像や碑の設置に必ずしも積極的ではない市民に対する税負担についての説明責任を問われますし、反対意見も出る可能性が高いため、実現までのハードルが高い。
しかし、維持費までを含めて寄付するということになれば、自治体の持ち出しは一切なく税的負担がないため、市民に対する説明責任は薄まります。相手は最も効率的な手段を考え抜いたうえで行動していると見るべきではないでしょうか。
今回、この方法でうまく事が運んだことは「運動」の成功事例となり、海外の各地で同じような手法が展開される可能性があります。自治体では対応は限られるため、国が早急に手を打たなければならない。なかには、像の建設や寄贈を容認してしまう日本側の自治体や首長も出てきかねません。
このような事態の頻発を防ぐためには何事も初動が大事で、像が建ってしまってからでは遅い。第二、第三のサンフランシスコ市が生まれないよう、国にはより強い対応を求めたい。
何よりもこの慰安婦像問題についての対応は大阪市民だけではなく、日本人が国全体の問題として考え直さなければならないと考えています。
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著者略歴
大阪市長。1975年、大阪生まれ。98年、九州大学法学部卒業、司法試験に合格。弁護士、大阪市議を経て、14年、「維新の党」から国政に立候補し、衆議院議員選挙で初当選。15年、衆議院議員を辞職し、橋下徹氏の大阪市長辞職に伴う市長選に出馬、初当選を果たす。