しかし、禁止されたのは軍事境界線付近での対北ビラ散布だけでない。印刷物などの物品や、金銭その他の財産上の利益を北朝鮮に送ることも禁止対象に含まれる。許可なしで中朝国境を通して韓国のドラマや音楽を入れたUSBメモリーを北朝鮮に搬入することや、第三国で北朝鮮人に物を渡すことも処罰される。多くの脱北者が北朝鮮にいる家族に金銭支援をしていることも処罰の対象になり得る。
独裁体制下で抑圧されている北朝鮮住民に外部から情報を伝えることを処罰するという同法は独裁政権を助けるもので、自由民主主義に反することは明白だ。韓国政府は、北朝鮮の独裁者の妹金与正氏がビラ批判をした直後に同法制定を約束した。だから同法は金与正法と呼ばれている。多数決によって全体主義体制を作り上げたナチスドイツを見れば分かるように、民主主義を単なる手続きで守ることはできない。今のままの韓国を自由民主主義勢力の一員としてサミットに呼ぶことに強い疑問を感じざるを得ない。(2020.12.21 国家基本問題研究所「今週の直言」より転載)
著者略歴
モラロジー研究所教授、麗澤大学客員教授。1956年、東京生まれ。国際基督教大学卒業。筑波大学大学院地域研究科修了(国際学修士)。韓国・延世大学国際学科留学。82〜84年、外務省専門調査員として在韓日本大使館勤務。90〜02年、月刊『現代コリア』編集長。05年、正論大賞受賞。17年3月末まで、東京基督教大学教授。同4月から、麗澤大学客員教授・モラロジー研究所「歴史研究室」室長。著書に『でっちあげの徴用工問題 』など多数。