以下、安熙正忠清南道知事、呉巨敦釜山市長、朴元淳ソウル市長がいかに女性の人権を踏みにじる偽善者だったかを詳しくみていこう。
まず、安熙正忠清南道知事。
1965年生まれで、高校時代から反全斗煥の学生運動に加わり、1983年に高麗大学に入学。主体思想派の地下組織「愛国学生会」を結成して、国家保安法違反で逮捕された。
その後、野党政治家の秘書などになって政界に入ったが、1992年に国会議員選挙に出て落選したあと、盧武鉉大統領候補の選挙運動に加わり、選挙資金を不正に受け取った容疑で逮捕され、実刑判決を受けた。
出獄後、2010年に忠清南道知事選挙に立候補して当選。先に見た李仁栄統一部長官とは高麗大学の地下組織時代からの仲間で、バリバリの主体思想派出身の政治家だ。安知事も李長官と同じく、公開の席で転向宣言を行っていない。
その安知事の現職秘書である金智恩氏が2018年3月、ニュースチャンネルJTBCに生出演して、安知事に8カ月の間に4回性暴力を受け、随時セクハラを受けた、と訴えた。性暴力はスイスやロシア出張時や国内のホテルなどでなされ、セクハラは乗用車のなかなどでも行われていたという。マスコミに本名で顔もさらした覚悟の訴えだった。
私は本稿を書くにあたって、インターネット上にあるそのインタビュー動画を視聴した。金智恩氏は約18分にわたり、憔悴した表情で、しかし、一言ひとことはっきりとした口調で自分の受けた被害と公開告発に踏み切った心情を語った。密室の出来事だから証拠を集めるのが困難ではないかという質問に対して、「私が証拠です」と決然と答えている。
最後に、「このように出てきたので私は消されてしまうかもしれない。国民の皆さんが守って下さい」と絞り出すように話したのが印象的だった。
その翌日、金氏はソウル西部検察庁に弁護団と一緒に出向き、安知事を刑事告訴した。それを受け、安知事はすぐ知事を辞任した。
安知事は検察の取り調べに対して、不適切な性関係があったことは認めたが、合意のうえであり性暴力ではないと主張し、一審では証拠不十分で無罪となった。しかし、二審と大法院(最高裁)では金氏の証言には一貫性があり信じるにたるとされて、3年6カ月の実刑判決が確定し、現在収監されている。
釜山市長もやはりセクハラ
次に呉巨敦釜山市長。
呉市長は1948年、釜山で大韓製鋼設立者の息子として生まれた。ソウル大学を卒業して上級公務員試験に合格し、公務員として釜山市副市長まで務めたエリート官僚だった。
その後、2005年から2006年に盧武鉉政権の海洋水産部長官となるなど、左派系の政治家となった。保守が強い釜山で、左派野党から国会議員選挙に1回、釜山市長選に3回出て落選したが、2018年、文在寅政権下で与党が圧勝した地方選挙で釜山市長に当選した。
2020年4月5日、呉市長は部下の女性職員を業務上の用事があるとして市長室に呼びつけ、セクハラをした。女性職員は抗議して部屋から逃げ出した。
10日後に国会議員選挙があるという政治的に緊張した時期だったこともあり、呉市長は被害女性に選挙後に市長を辞任するという覚え書きを渡し、選挙後まで事件を明らかにしないように頼んだ。 覚え書きには、文在寅が弁護士時代に開設した「法務法人釜山」の公証がつけられていた。また、大統領府の現職の人事首席補佐官がこの法務法人出身者だったので、政権や与党から被害女性に圧力がかかったのではないかとの疑惑が出ている。被害女性は選挙後の辞任を受け入れた。
4月23日、呉市長は記者会見を開いて以下のように語り、市長を辞任した。
「私は最近、一人の女性と五分間面談した席で不必要な身体接触があった。強制セクハラとして認められ得ることを悟った。私の行動が軽重に関係なく、どのような言葉でも許されない行為であることを知っている。 このような間違いを抱えたまま、偉大な釜山市民が任せて下さった市長職をこれ以上遂行することは道理ではない。公職者としての責任をとる形で、残った人生を謝罪と懺悔しつつ一生間違いを背負って生きていく。被害者の方がまた別の傷を負わないように、言論人の皆さんを含む市民が保護して下さい」
それに対して、被害者は書面で強く抗議した。
「今日の呉市長の記者会見の一部の文言に深い遺憾の意を表します。そこで発生したことは軽重を論じられません。それは明白なセクハラであり、法的処罰を受ける性犯罪でした。『強制セクハラとして認められ得ることを悟った』 『軽重に関係なく』などの表現で、逆に私が『普通ではない人間』として見られるのではないかと恐れます。(略) 私は呉市長の辞任を求めました。それが常識だからです。間違ったことをした人間は処罰を受け、被害者は保護されるべきだというあまりにも当たり前の理由のためです」
しかし、8月現在、呉市長に対する警察の捜査は進んでおらず、起訴されるかどうかさえ決まっていない。
耐えきれなくなった女性秘書が告発
最後に、朴元淳ソウル市長。
7月10日、市内の山中で朴市長が遺体として発見され、自殺と断定された。朴市長は8日までは、不動産価格の暴騰を抑制する問題で、長年の左派運動の同志である与党「共に民主党」の李海代表と会談するなど、通常に業務をこなしていた。
ところが、九日に市庁に出勤せず全ての日程をキャンセルした。夕方、同居していた娘が(妻とは別居中)、「父が遺言めいたことを残して市長官舎を出たあと、携帯電話もつながらない」と警察に失踪届を出し、大捜索の結果、10日の午前零時過ぎにソウル北部の山中で遺体が発見された。
朴市長は自分に仕えていた女性秘書に対して、2017年から4年間もセクハラ行為を続け、耐えきれなくなった秘書が、8日午後に朴市長を刑事告発していた。
告発によれば、朴市長は市長室の横に作られていた寝室に秘書を呼び入れ、膝にキスしたり、すりよって体を接触させたり、「抱いてくれ」と迫ったりした。
また、スマホに自分の下着姿の写真やわいせつな文書を送りつけ、同じものを送るように迫ったという。