朝日新聞「伝承館語り部検閲記事」は即刻、撤回すべきだ|渡辺康平

朝日新聞「伝承館語り部検閲記事」は即刻、撤回すべきだ|渡辺康平

被災者を馬鹿にするのもいい加減にしてほしい!「東日本大震災・原子力災害伝承館」を巡る悪意に満ちた印象操作と誘導尋問――いま朝日新聞の報道によって深刻な被害が生じている。繰り返される報道被害。被災者を貶め続ける朝日新聞の大罪!


ここまでの流れを読めば、マニュアルに「『国と東電を批判するな』『国と東電を批判する語り部は排除する』と書いてある」と理解した人が多いだろう。

ところが、それは事実に反する。私は朝日新聞記事の根拠になっているとされる「東日本大震災・原子力災害伝承館語り部活動マニュアル」の実物を入手するとともに、実際に伝承館オープン以来、口演を行っている語り部の方々に聞き取りをした。すると、この一連の報道が事実とかけ離れている実態が浮かび上がってきたのだ。 

【論点1】マニュアルに「国と東電を批判するな」と書いてあるか。

マニュアルの中でこの論点に該当すると考えられる部分は以下の箇所と思われる。

〈4 口演依頼内容等について
(1)内容
東日本大震災及びそれに伴い発生した原子力発電所事故に関する口演(語り)
~中略~
(7)口演を行うにあたっての確認事項
イ(イ)次に挙げることは口演内容に含めないようお願いします。
 ・特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等。
 ・事実と異なるもしくは、そのような誤解を与える内容及び表現。
 ・教育的観点から不適切と思われる表現。
 ・個人情報。〉

その他、聴講者が理解しやすく口演をするように話すノウハウや、聴講者からの質問に対する受け答えのルールが書かれている。

この箇所を記載した意図について、伝承館の担当部局である福島県文化スポーツ局生涯学習課に話を聞くと「一般的、常識的な範囲内でマニュアルを作成したもの」という回答が返ってきた。

確かに、この記述は人前で話す際にまず確認されるべき一般的・常識的なことだ。では、その特定の個人団体の中には誰が含まれるのか?

例えば、特定の国籍・民族の人、特定の身体障害を持つ人、特定の思想・信条を持つ人、特定の組織に所属する人に対して「批判・誹謗中傷」「事実と異なること」が語られればそれは特定の何かに対する差別問題になる。「何か」の答えは無限にある。

その無限にある「何か」から朝日新聞の記者は、あえて「政府と東電」だけをピックアップしたのだ。あたかも、マニュアルに「政府と東電の批判NG」という旨の記述があるかのように読者を印象操作したのである。狡猾極まりない。

朝日記者による誘導尋問のような質問

朝日の記事では、〈伝承館の橘内隆企画事業部長は「国や東電、県など第三者の批判を公的な施設で行うことはふさわしくない」と述べた〉と書かれている。橘内氏によると、9月21日の夕方に朝日新聞の関根記者から、橘内氏あてに電話がかかってきたという。取材内容はマニュアルに書かれた「特定の団体、個人または他施設への批判・誹謗中傷等」という記述についての説明を求めるものであった。橘内氏は「一般論として、公的な施設で批判・誹謗中傷を行うことはふさわしくないのではないか」と答えた。

その後、朝日新聞の関根記者は「第三者とは国や東電が入るのか?」と橘内氏に尋ねた。

橘内氏は「一般的には、国や東電が入るのではないでしょうか」と答えたという。その上で、橘内氏は「記事に書かれたカッコ書きのように、私がスラスラと答えたわけではない。むしろ、誘導尋問のような質問を受けていた」と証言した。

朝日が書いていない事実

【論点2】マニュアルに「国と東電を批判する語り部は排除する」と書いてあるのか。

マニュアルは、伝承館に登録された語り部の方々(特に初めて語り部をされる方)に対して、館内での語り部口演を円滑に遂行してもらうことを目的に作成されたもの。それは「答えられない質問に対して無理に答えない」「体調不良の際には、無理しないようお願いします」といったマニュアル内の言葉にも現れている。

その中で、論点2に該当すると考えられる部分は以下の箇所だ。

〈3 伝承館語り部について
(2)講師選定
 語り部口演を依頼する際には、来館者の声やニーズなどを踏まえ、予め提出していただいた原稿内容を基に講師を選定することとします。〉

この部分をもって朝日新聞は「原稿を検閲し、従わなければ講師にしない」と解釈したのである。この点について、私が聞いた語り部のひとりは、「実態は全く違う。検閲など全く無い」と答えている。

福島県では、平成30年度より、伝承館の開館に向け、施設内で活動する震災の経験やふくしまの未来を語ることができる人材を育成してきた。(参考:震災を後世につなぐ語り部育成事業 https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/11055b/kataribe.html

育成事業の資料によると、年四回の研修を通じて、地震や津波、そして原子力災害による混乱した震災当時の様子や、現在まで続く避難生活等について、参加者自身が体験した事実やこれまでの想いを伝え合う中で参加者同士の交流を深めてきたという。

また、研修では、参加者自身が書いた「口演原稿」をグループ内で確認し、当時の様子や思いが、聴き手の心に響くよう、何をいかに伝えるのか吟味してきた。

こうした語り部育成事業の研修を経て、伝承館語り部として「登録」された方が、口演を行っているのだ。

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