南海トラフ「巨大地震注意」は至極真っ当な発表だ|和田政宗

南海トラフ「巨大地震注意」は至極真っ当な発表だ|和田政宗

8月8日、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。「国民の不安を煽るだけ」という否定的な意見もあるが、はたして本当にそうなのか。この情報をどう見ればよいか、解説する。(サムネイルは気象庁ホームページより)


南海トラフ地震は近いうちに起きるのか?

8月8日16時43分に、日向灘を震源とする地震が発生した。これを受け、気象庁は17時に、「南海トラフ地震臨時情報(調査中)」を発表し、南海トラフ地震の評価検討会を開催した。「南海トラフ地震臨時情報」の発表は、5年前の運用開始以来初めてのことである。

そして、検討会による調査検討結果により、19時15分に「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表された。

この情報についてどのように見ればよいかとの質問が私のもとにも多く寄せられている。気象庁の公式の発表は、「南海トラフ地震の想定震源域では、新たな大規模地震の発生可能性が平常時と比べて相対的に高まっていると考えられる」となっている。ただ、「特定の期間中に⼤規模地震が必ず発⽣するということをお知らせするものではない」という注釈がついている。

これをどう見ればよいか? 南海トラフ地震は近々起きるのか? 起きないのか? と多くの方が疑問を持ったわけだが、これをかみ砕いて説明すると次の通りである。なお、私の説明は、防災の構築に前職NHKアナウンサー時代から現在も国会議員として関わっていること、防災の研究者(修士号)であり、専門性を持った人物の説明と捉えて聞いていただければと思う。

まず、南海トラフ地震が近いうちに起きるのか? という切迫性についてであるが、日向灘の地震で高まったのかと言えば、地震発生前よりは高まっていると言える。しかし、そもそも以前より、南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくない状況である。1秒後に起きるかもしれないし、それが30年後かもしれないというだけなのである。

起きて欲しくないという思いは極めて強いが、南海トラフ地震は約100年周期で繰り返し起きている。昭和21(1946)年の昭和南海地震からはすでに78年が経過している。

そして、今回の日向灘地震もそうであるが、どのような地震も発生から1週間は強い警戒が求められる。余震についての警戒とともに、平成23(2011)年3月11日の東日本大震災では、2日前の3月9日にM7.3の地震が前震となり3月11日のM9.0の巨大地震を引き起こしており、今回の日向灘地震が南海トラフ地震を誘発する可能性についても警戒を怠ってはならない。

日向灘地震発生後、南海トラフ地震という過去

今回、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたのは、ひずみ計に日向灘地震後に変化が見られたという事実からである。

評価検討会として、南海トラフ地震の想定震源域内で大きな地震が起きて断層が割れたことから、南海トラフの割れていない断層に影響を及ぼす可能性が当然にあり、「新たな大規模地震の発生可能性が、平常時に比べ相対的に高まった」と発表しない訳にはいかないのであり、至極真っ当な発表であると言える。

なお、最も近い歴史上の南海トラフ地震は、昭和16(1941)年11月の日向灘地震(M7.2)から3年後の昭和19(1944)12月に昭和東南海地震(M7.9)が発生し、その2年後の昭和21(1946)年12月に昭和南海地震(M8.0)が発生している。この2つの地震はいずれも強い揺れと大津波により、1000人を超える死者が出ている。そのほか過去においても日向灘地震発生後、南海トラフ地震が発生したとみられる歴史的事実がある。

では、日頃の行動でどのようなことを心掛ければよいかであるが、まず、南海トラフ地震発生時にどう避難したらよいかを確認することである。

南海トラフ地震が起きれば、静岡県で最短2分、和歌山県では最短3分で津波が来る。地震後速やかに避難しなければ、津波に襲われてしまう。関東から沖縄までの太平洋沿岸や瀬戸内海で大津波が襲う。もう一度、お住まいの地域やお盆で帰省する地域における南海トラフ地震での揺れの強さや津波の高さの想定について調べ、どのように避難するか確認して欲しい。

そして、備蓄も重要である。どんな地震においても発災から4日目までに、水や食料等の物資を被災地に届けるよう政府は体制を構築しているが、発災から3日間は自らの手で生き延びられる備蓄が必要である。南海トラフ地震は広域が被災するとみられることから、私は最低1週間の備蓄をお勧めしたい。

私の過去の東日本大震災等の経験から述べれば、飲料水が何よりも重要であり、乾麺の備蓄は、普段の食事で使えたりスペースの観点からも効率的である。

また、ネット上の偽情報、誤情報への注意も重要である。すでに、日向灘地震における被害状況の偽画像や「人工地震」だとする偽情報が発信されており、政府においては、ネット上での科学的根拠のない言説等についても虚偽情報だとして注意を呼び掛けている。

私もすでに、こうした虚偽情報について惑わされないようにとの注意を政府機関のネット上の呼びかけなどを引用し発信しているが、東日本大震災では、原発事故と放射能についてや、工場火災と雨に含まれる物質について相当のデマや偽情報が拡散され、私もそれを目の当たりにした。さも真実かのように一気に広がってしまうのである。

であるから、今回の南海トラフ地震臨時情報関連についてもデマの拡散による国民の混乱は生じさせてはならず、私もしっかりと対処していく。

現在も「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表中である。南海トラフ地震への警戒を強くするとともに、我が国は地震がどの地域でも発生してもおかしくなく、日本全国でもう一度地震や津波への備えを確認して欲しいと思う。自らの命、家族の命を守るために何卒今一度の確認をお願いしたい。国としての備えは、国会議員としてしっかり高めていく。

関連する投稿


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)


トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

トランプ再登板、政府与党がやるべきこと|和田政宗

米国大統領選はトランプ氏が圧勝した。米国民は実行力があるのはトランプ氏だと軍配を上げたのである。では、トランプ氏の当選で、我が国はどのような影響を受け、どのような対応を取るべきなのか。


我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

我が党はなぜ大敗したのか|和田政宗

衆院選が終わった。自民党は過半数を割る大敗で191議席となった。公明党も24議席となり連立与党でも215議席、与党系無所属議員を加えても221議席で、過半数の233議席に12議席も及ばなかった――。


衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

衆院解散、総選挙での鍵は「アベノミクス」の継承|和田政宗

「石破首相は総裁選やこれまで言ってきたことを翻した」と批判する声もあるなか、本日9日に衆院が解散された。自民党は総選挙で何を訴えるべきなのか。「アベノミクス」の完成こそが経済発展への正しい道である――。


石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

石破新総裁がなぜ党員票で強かったのか|和田政宗

9月27日、自民党新総裁に石破茂元幹事長が選出された。決選投票で高市早苗氏はなぜ逆転されたのか。小泉進次郎氏はなぜ党員票で「惨敗」したのか。石破新総裁〝誕生〟の舞台裏から、今後の展望までを記す。


最新の投稿


【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

【今週のサンモニ】改めて、五年前のコロナ報道はひどすぎた|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

【今週のサンモニ】兵庫県知事選はメディア環境の大きな転換点か|藤原かずえ

『Hanada』プラス連載「今週もおかしな報道ばかりをしている『サンデーモーニング』を藤原かずえさんがデータとロジックで滅多斬り」、略して【今週のサンモニ】。


なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

なべやかん遺産|「ゴジラフェス」

芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「ゴジラフェス」!


【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか  増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

【読書亡羊】闇に紛れるその姿を見たことがあるか 増田隆一『ハクビシンの不思議』(東京大学出版会)

その昔、読書にかまけて羊を逃がしたものがいるという。転じて「読書亡羊」は「重要なことを忘れて、他のことに夢中になること」を指す四字熟語になった。だが時に仕事を放り出してでも、読むべき本がある。元月刊『Hanada』編集部員のライター・梶原がお送りする時事書評!


「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

「103万円の壁」、自民党は国民民主党を上回る内容を提示すべき|和田政宗

衆院選で与党が過半数を割り込んだことによって、常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した――。このような厳しい状況のなか、自民党はいま何をすべきなのか。(写真提供/産経新聞社)