呼びかけ終了で危機は過ぎ去ったのか
8月8日のM7.1の日向灘地震を受けて発表された「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」は1週間後の8月15日に政府による呼びかけが終了した。
この対応について改めて整理すると、政府は漠然と臨時情報を出したのではなく根拠をもって出した。日向灘地震に伴いひずみ計に変化が見られたことから、政府の評価検討会は臨時情報を出さなければならないと判断したのである。
つまり、南海トラフ地震の想定震源域内で大きな地震が起きて断層が割れたことから、南海トラフの割れていない断層に影響を及ぼす可能性が当然にあり、さらにひずみ計に変化が続けば南海トラフ地震が起きる可能性は高まる。臨時情報を出したのは至極真っ当なことである。
では、呼びかけ終了で危機は過ぎ去ったのかと言えば、全くそうではない。そもそも以前より、南海トラフ地震はいつ起きてもおかしくない状況である。南海トラフ地震は約100年周期で繰り返し起きている。昭和21(1946)年の昭和南海地震からはすでに78年が経過しているなか、今回の地震で南海トラフ地震の想定震源域の一部が割れたのである。
最も近い歴史上の南海トラフ地震は、昭和16(1941)年11月の日向灘地震(M7.2)から3年後に起きた、昭和19(1944)12月の昭和東南海地震(M7.9)で、南海トラフの東半分の断層が割れた(ずれた)。そして、その2年後の昭和21(1946)年12月に昭和南海地震(M8.0)が発生し西半分の断層が割れた。過去においても日向灘地震発生後、南海トラフ地震が発生したとみられる歴史的事実がある。
全国各地を見ても、M7クラスの首都直下地震の発生確率は今後30年間で70%であり、M8クラスの日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の発生確率は今後30年で80%である。日本国中どこにいても大地震への備えは怠ってはならないのである。
食料の備蓄や家具の転倒防止、避難先と避難経路の確認をすることで自らの命や家族の命を守れる確率が相対的に高まる。大地震は津波を伴うことが多く、地震があったら津波に警戒し、適切な避難行動を取っていただきたい。
命を守るための正確な情報を国民に
また、これからの時期は特に台風への備えが重要である。今月の台風5号、台風7号においては、気象庁と国土交通省の共同記者会見が行われた。この気象庁と国交省の共同会見は特に危機レベルが高い時に国民に厳重警戒を呼び掛けるために行われる。こうした共同会見が最初に行われたのは、大きな被害が出た令和元(2019)年台風19号の日本列島接近を控えた前日からである。
この時は、1200人以上の死者行方不明者が出た、昭和33(1958)年の狩野川台風並みの大雨となる恐れがあり、厳重警戒が必要との予測が出ていた。私は当時、国土交通政務官で国土交通省の発信改革に取り組んでいたが、この迫りくる危機を国民に強く認識してもらうために国土交通省の関係各部局に発信強化を要請した。
そうしたところ気象庁と国交省で共同記者会見をすれば、今までにないことであり国民の危機意識は高まるのではないかとの提案があった。そして、記者会見の時間を午後2時開始にすれば、NHKニュースのみならず民放もワイドショーの時間内で中継するはずだという見込みもあった。これを受け、国交省として実行を決定し、実際に記者会見はワイドショー内で中継され広く伝えられた。
司会者も「共同会見はこれまでにないこと」と、視聴者に厳重に警戒し危機意識を持つことを呼びかけた。しかしながら、台風19号は100人を超える死者行方不明者を出した。もっと強く具体的に呼びかけられなかったのか忸怩たる思いであった。だからこそ、その後も国交省の発信改革を行った。
例えば、気象庁は国交省の外局にあたるが、国土交通政務官として、ツイッター(現X)の改革を行った。それまでは、気象庁はツイッターのアカウントをひとつしかもっておらず、ツイッターのタイムラインには防災情報とイベント情報が混在するような状況であった。災害時に国民がよりどころとするのは気象庁の情報である。
しかし現状の運用では重要な防災情報が埋もれてしまう。私は気象庁に防災情報に特化したツイッターアカウントの開設を要請し、気象庁は実現した。当初は人員の関係もあり、台風が迫っているのに発信量が変わらなかったことがあったりして、その都度、私のほうから指摘させていただき改善を行った。現在は約47万人がフォローし、南海トラフ地震臨時情報の時のみならず、台風や大雨、高温に対する警戒など積極的な発信を行っている。
私がXアカウントで、地震や津波、台風の際に様々な呼びかけを行うのは、国民一人一人に情報を届けなくてはならないという思いからである。NHKアナウンサーとして東日本大震災を仙台で経験し、本当に国民一人一人に避難呼びかけが届く放送だったのか、政府や自治体の呼びかけは一人一人に届くものだったのか、皆が努力したが、まだやれたという思いは強い。
「国会議員が呼びかけて何になるの?」との批判書き込みをいただくが、命を守るための正確な情報を国民に届けることは国会議員として当たり前のことである。
災害時はデマが飛び交う。また正確でない政府や各所への批判が行われる。東日本大震災の際には、石油コンビナートの火災によって「有害な雨が降っている」「政府はそれを隠している」とのデマが広く拡散され、信じ込んだ方もいた。有事の際には、政府関係各機関の情報をはじめ正確な情報を収集して欲しい。私も正確な情報を発信する。
政府全体として正確な情報や呼びかけが国民一人一人に届くよう、発信強化の提案を行い実行していきたい。国民の命を守るために。