「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

心にぽっかり空いた穴――。安倍総理辞任の報道を受けて、多くの人たちが同じような気持ちになったのではないだろうか。しかし、この国はいつまで“安倍依存症”を続けるつもりなのだろう――。「米中激突」で世界がより不安定になるなか、感傷に浸っている時間はない。6月の時点で「『菅義偉総理』待望論」を打ち上げたのはなぜなのか、その理由がついに明かされる!


角栄先生は“魔神”なので、論じる対象にならないんですよ。やっぱり竹下登総理の忍耐力に近づきたい。橋本龍太郎総理のあの勉強力に近づきたい。福田康夫先生のあの厳しさと思いやりに近づきたい。小泉総理は天才なので、真似すると大変なことになる。

要するに、安倍氏の名前を挙げず、氏と不仲な福田氏と小泉氏の名前をわざわざ挙げただけの嫌味だが、思い返せば、かつて参議院選で惨敗した安倍氏の背中から弾を打った石破氏を、あえて幹事長に抜擢したのは安倍氏である。これは相当の「忍耐力」であり、「思いやり」ではないのか。
 
何しろ、この時の総裁選は、第1回投票の党員票で石破氏が安倍氏を制していたのである。地方票を制した石破氏は、新総裁にとっては脅威だ。それを重要閣僚ではなく、あえて幹事長につけるのは、いわば「魔神」的決断ではないのか。

もし石破氏に能力があれば、次の総裁選を睨み、地方を幹事長の支配下に置くことは容易だったはずだからである。
 
では、その幹事長時代、石破氏はどのような能力を示したのか。防災省創設に向かって動いたのか。次期総理に相応しい権力基盤を作るために、地方活性化に動いたのか。選挙で勝利を主導したのか。寡聞にして私はその実績を聞いたことがない。
 
その後、石破氏は、安倍総理から安保担当相を打診された時に、憲法観が異なるという表向きの理由でこれを断った。安倍氏自身が「自分の考えは総理になった時にやれば良いではないか。私がいま政権にいるんだから、まず私の考えの実現に汗をかいてくれないか」と説得したのを拒んでのことであったと聞く。

安倍晋三と石破茂

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が、私自身が見聞したのは少し別の話である。石破氏に極めて近い人物から、この時、私は次のようにねじ込まれたのをはっきり覚えているのである。

「安倍さんは石破に防衛相を打診してきた。もう石破は防衛相を2度もやっているんだ。また同じポストをやらせるとは舐めているのか。石破は、外務大臣兼副総理でない限り受けないから、安倍さんにそう言ってくれ」と。
 
副総理は麻生太郎氏だし、そもそもが名誉職である。金丸信氏など過去の副総理を思い浮かべても、次の総理を狙う人間が欲しがるポストではあるまい。妙なことを言うものだと、不思議に思った記憶が残っている。
 
いずれにせよ、こうして安保担当相を固辞した石破氏だが、その後、安倍氏が地方創生を内閣の最重要課題として掲げると、石破氏はその初代大臣への就任は受諾した。
 
私は期待を持って石破氏の動きを見守った。
 
幹事長のような権力行使型の地位には弱くとも、能弁な氏のことだ、政策実現能力はあるのかもしれないと、この頃までは考えていたからだ。
 
私は世間では「アベ友」と揶揄されるが、そもそも党派根性を持っていない。私にとっての関心事は、国益本位の政治が行われるか否かであって、その政治家の党派も私自身との距離、まして気が合う、合わないなどはどうでもいい。国を託すに足る政治家が多ければ多いほど、日本の明日に安心できる。
 
ところが、期待は裏切られた。石破氏は地方周りに精を出すだけで、碌に仕事をしなかったからである。
 
氏が地域分散・内需主導型経済を唱えるのであれば、この時こそ、東京一極集中から地域分散へのパラダイム転換を主導する絶好の機会だったはずである。

強力な指導力を発揮し、党幹事長を務めた強みを活かし、自民党の地方支部および地域の商工会、中小企業団体、青年会議所などを連動・組織化し、地域の経済指標を取りまとめ、地域ごとの成果と失敗を解析して国の構造を転換する──安倍総理が外交安全保障に専心しているなかで、石破氏はこの時、事実上の内政担当総理になってしまえばよかったではないか。

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