ずっと議論してきたのは自民党
先月の衆院選で与党が過半数を割り込んだことにより、国会運営の状況が激変した。これまで、平成24(2012)年に安倍晋三自民党総裁のもと政権奪還を果たして以降は、自民党で単独過半数の議席を確保し、自民党が想定する日程のもと安定した国会運営を行うことができ、平和安全法制など野党側の根強い反対があった重要法案も成立させることができた。
しかし、与党で過半数を失った今、野党が全て反対に回れば予算も法案も通らない状況となってしまった。衆院における委員長ポストは、立憲民主党に予算委員長、憲法審査会長などの重要ポストを渡すことになった。
委員長ポストの配分は、各派(各党)協議会で話し合われるが、これが決裂し本会議での投票になれば、委員長ポストは全て野党に取られることになる。だから、野党の要求を飲まざるを得ない。常任委員長ポストは、衆院選前の「与党15、野党2」から「与党10、野党7」と大きく変化した。
先週、政府与党は新たな総合経済対策を取りまとめた。昨年を上回る13.9兆円の補正予算を組む。しかし、補正予算も野党の一部と連携し過半数を上回らなければ、可決・成立しない。与党は国民民主党と協議し、「103万円の壁」の引き上げについて合意。国民民主党が補正予算案に賛成することで補正予算は成立する見通しとなった。
私はこの「103万円の壁」について、党内において引き上げるべきと強く主張した。政務調査会全体会において、「103万円の壁についてずっと議論してきたのは自民党であり、国民民主党の提案を受け入れ、国民民主党を上回る内容を自民党から提示すべきである」と述べた。
そもそも安倍政権以降、菅政権、岸田政権において「103万円の壁」の議論を自民党は継続して行い、対策案を練ってきた。昨年10月からは、「年収の壁・支援強化パッケージ」を開始している。年収が106万円を超え、厚生年金や健康保険料の支払いが発生し、手取りが減少してしまうアルバイトやパートの方々に対し、手取りが減らない取り組みを行った企業に政府が一人当たり最大50万円の支援を行うというものである。
本来「103万円の壁」問題は我々が本丸であったのに、我が党が衆院選で前面に掲げないので国民民主党が主張し、これまで自民党に投票してきた20代、30代の支持が国民民主党に多く流れてしまった。
では、自民党は手取りを増やすためにどのような手を打っていくのか。
「賃上げを実現する」経済対策
まず、高いスキルが求められるのに低所得に置かれている分野で給与を引き上げる政策を打つ。補正予算で、保育士の処遇を抜本的に改善する。保育士の処遇は公定価格がベースになっているが、全職種平均に比べ月収が5万円低い。給与の原資となる人件費を10.7%引き上げ、今年4月分からさかのぼって引き上げる。
同様の状況に置かれている介護職員の給与引き上げも必須である。全職種平均より月収は約7万円低くなっている。今年度は介護報酬改定があり4月から給与は引き上げられたが、民間の賃上げが進み給与差は広がった。介護報酬改定は3年ごとであり、差はさらに広がってしまう。介護現場も公定価格がベースとなっており、政府の追加対策が極めて重要になる。
私は、閣議決定された「新たな総合経済対策」の文言において、当初は「更なる賃上げに向けて」となっていた記述を、「賃上げを実現する」と変更させた。これをもとに、介護現場の給与と手取りを引き上げていく。さらに、我が国経済の根本的な強化を行っていく。最先端分野へ改めて注力する。2030年度までにAI、半導体の分野に10兆円以上の公的支援を行い、10年間で50兆円超の官民投資を引き出す。これにより、全分野における継続的な所得向上を目指す。
こうした経済対策に加え、党改革、政治改革についても自民党が行動しなければ国会審議は停滞する。党改革において、まずやるべきこととして私が提案してきた、不記載額の返納については党において行う方針で議論が進んでいる。まだ国会議員の政治団体の手元に不記載額が残っているので、「裏金」とレッテルを貼られる。これを返納させ、能登の震災の被災地などに寄付を行う。本来は衆院選前に行うべきであった。
これと併せ、「新政治改革大綱」の策定は必須だ。リクルート事件の後、自民党は半年以上にわたって議論を重ね、根本的な党改革、政治改革案をまとめた「政治改革大綱」を策定し、国民に約束し党再生への道を歩んだ。今こそ「新政治改革大綱」を策定し、国民に党改革、政治改革の実行を約束しなければ、「自民党は何も変わっていないし、約束もしない」と国民に見られ続ける。「新政治改革」を必ず実現し、党を再生させたい。
憲法改正についても、改正賛成勢力が3分の2を割り、出直しとなってしまった。憲法改正の動きを決して止めてはならず、憲法審査会での議論を進めるべきである。衆院憲法審査会長は立憲民主党の枝野幸男氏となったが、改正に賛意を示してきた各会派(公明、維新、国民、有志の会)は開催を求めていくはずであるので、公正中立な憲法審査会長として、審査会を開催しないとなればサボタージュと言え、極めておかしな状況となる。
憲法審査会の外においても、これら賛成各会派と詰めの議論を重ね、衆院で憲法改正賛成勢力が3分の2を取り返したところで、国家国民を守るための憲法改正を一気に進めたい。厳しい状況の今こそ踏ん張らなくてはならない。真の闘いはこれからである。