「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

心にぽっかり空いた穴――。安倍総理辞任の報道を受けて、多くの人たちが同じような気持ちになったのではないだろうか。しかし、この国はいつまで“安倍依存症”を続けるつもりなのだろう――。「米中激突」で世界がより不安定になるなか、感傷に浸っている時間はない。6月の時点で「『菅義偉総理』待望論」を打ち上げたのはなぜなのか、その理由がついに明かされる!


「政治家のしごとはたった一つ。勇気と真心を持って真実を語る。それができないなら絶対になるな」。私が政治家になる前、渡辺美智雄先生から言われた言葉です。

「安倍政権は国民に嘘をついている」という安倍叩きに便乗した発言だが、この一節をもって、石破氏が政治家失格であることは私には明白に思われる。

「勇気を持って真実を語る」のは言論人の仕事であって、政治家の仕事ではないからだ。

安倍氏ならば、真実を語ることが政治家の役割だとは決して言うまい。
 
なぜなら、政策決定、人事、外交全ての政治プロセスにおいて、政治家がありのままの真実を語ることなど決してあってはならないし、できない相談だからである。政治の本質は、相矛盾し、激突する利害の調整であって、事が重大であればあるほど、過程は秘匿されねば成果は得られない。
 
政治家が真実など語った日には、結果は全てぶち壊しになる。「政治とは勇気をもって真実を語ることだ」と語った段階で、石破氏は本質的なを嘘ついていることになる。「クレタ人は嘘をつかない」と嘘つきのクレタ人は言った、という古典的な逆説である。
 
逆に、だからこそ安倍氏は言い続けてきたのではなかったか、「政治は結果である」と。

総理にならないとできないのか

では石破氏は現実にはどんな結果を生み出してきたのか。
 
たとえばこの論文には、私は以前から「防災省」を作るべきと主張していますとある。また別の一節には、私は、いまの日本には行き過ぎた「株主優先金融資本主義」というべき部分があると思っていますとあり、それに対して、氏自身は「地域分散・内需主導型」を目指すと語っている。
 
だがそもそも、防災省を作ることが本当に防災対策になるのだろうか。
 
防災に必要なインフラの整備はすでに省庁で担当が決まっていて、それで別段不都合は生じていない。災害大国日本であっても、国を挙げて対応しなければならない大規模災害は数年に一度だ。

大規模災害が発生したら内閣総理大臣が総指揮を執り、官房長官が実務を掌握する。その時防災大臣は何をするのだろう。
 
そして次の地震、台風、津波、原発事故、疫病、すべて対処法も専門も職掌も全く異なる。それらすべてに対応できる省とは、もう一つの小さな政府ではないか。
 
それにもかかわらず、石破氏が独自の見識を以てあえて防災省の必要を痛感しているのだとしよう。それならばなぜ、いままでに作らなかったのか。
 
石破氏は15年以上にわたり、いつも有力な首相候補として要職を歴任してきた。新たな省庁創設は、首相にならなければできない話ではない。時の総理に進言し、閣僚ないし党要職にあってその動きを主導すればよかったではないか。

「株主優先金融資本主義」批判も、大した意味はない。現在、世界のどの国であっても、株価を度外視して国力の保持はあり得ない。外貨の呼び込み抜きに、内需の拡大も図れない。
 
もちろん、経済循環を地域、内需優先の政策に重点を置くというのなら理解できる。
 
私も同じ立場である。
 
だが、それならば、実際の石破氏は何をやったのか。

石破氏は『文藝春秋』の2019年11月号「論理の破綻した憲法改正は許せない」という記事のなかで、歴代総理の理想の指導者についてこう言っている。

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