「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

「菅義偉総理」待望論|小川榮太郎

心にぽっかり空いた穴――。安倍総理辞任の報道を受けて、多くの人たちが同じような気持ちになったのではないだろうか。しかし、この国はいつまで“安倍依存症”を続けるつもりなのだろう――。「米中激突」で世界がより不安定になるなか、感傷に浸っている時間はない。6月の時点で「『菅義偉総理』待望論」を打ち上げたのはなぜなのか、その理由がついに明かされる!


「菅総理」は安定統治を保持できるか

頭角を現した時のそうした「潰し」を乗り切って権力の座に就くほかないのが政治家の宿命である。氏が、いまの包囲網を突破できるかどうかは、その器と天命にかかっており、私の関知するところではない。
 
個人的な親近感ゆえに菅氏を持ち上げていると思われても困るのではっきり書いておくが、私は菅氏とは親しい関係にない。私が菅氏に連絡することは稀であって、その大半は注文を付ける電話である。氏にとって、私はそう面白い存在ではなかろうと推測する。

だが、菅氏は決して拒んだことがない。電話を取らねば済むだけなのに、クレーム後の処理についてまで──おそらく不快感を押し殺して──折り返しの電話をくれる。凡百の人間には不可能なことだと感心したこともあった。
 
次期宰相選びは、この国の命運を大きく左右する。
ポスト安倍は、競馬レースのような気軽な話題ではない。
 
論壇の、また国民の間での宰相論をこの国において活性化させること、総理大臣の器とは何か、ポスト安倍時代の宰相の条件を論じ、また宰相候補たちの実力を厳正に診断して世に伝える一方、候補たちも国家観と政策を堂々と語り、その能力を国民に示すこと──それがいかに切実な問題かということを、もう一度冒頭に戻って確認していただきたい。
 
次の宰相選びに失敗すれば、わが国は安倍総理によって確保できた高度な安定を瞬時に失う。安倍時代は一場の夢と化す。
 
人口激減に対処し、中国の脅威を厳として退けながら、文化とイノベーション、平和な繁栄の中核的大国であること──本当にそのヴィジョンを手掛け、この国の安定統治を保持できるのは誰なのか。
 
問われているのは宰相候補の側だけではない。論壇、そして国民の、日本を亡ばさぬための厳粛な覚悟と見識が問われているのである。

(初出:月刊『Hanada』2020年8月号)

著者略歴

小川榮太郎

https://hanada-plus.jp/articles/208

文藝評論家、社団法人日本平和学研究所理事長。昭和42(1967)年生まれ。大阪大学文学部卒業、埼玉大学大学院修了。第18回正論新風賞を受賞。主な著書に『約束の日―安倍晋三試論』(幻冬舎)、『徹底検証「森友・加計事件」――朝日新聞による戦後最大級の報道犯罪』(飛鳥新社)など。公式サイト→http://ogawaeitaro.com

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