「北朝鮮の科学者や技術者に対する金正恩の扱いは、父親のそれとは明らかに異なっている。核科学者と技術者の生活環境は、金正恩の下で劇的に改善された」
「金正日総書記の時代、北朝鮮のプロパガンダでは科学者が優遇されているように描かれていたが、現実はまったく違っていた。ある証言によれば、科学者の約80%は家族を養うために、与えられた仕事以外の仕事を見つけなければならなかったという。科学アカデミーの前のアパートは『発酵アパート』と呼ばれ、住民たちは自己消費と販売のためにトウモロコシやドングリからアルコール製品を作っていた」
核兵器開発に従事しながら、化学知識を生かして行なうのが密造酒作りという生活とは、あまりにも落差が大きすぎる。
金正日時代の科学者とは一体なんだったのだろうか。
それに対し、「1984年から2017年の6回目の核実験まで、北朝鮮の指導者たちは核・ミサイル計画に関連する119件の立ち入り検査を実施した。このうち83回は金正恩が訪問している」と、金正恩の熱の入れ様は際立っている。報告書は、金正恩について「彼は科学の進歩に必要な試行錯誤のプロセスに理解を示している」と分析している。
だが誤解してはならない。元が酷すぎただけで、金正恩体制でも悲惨な状況にあることは変わりない。その凄まじさが表れているのが、第10章「核の安全性」である。